カリス姫の夏


「あっれー?
少ないですか?
いつもはねー、うちのやつが準備してくれるもんだから、確認してくるの忘れちゃったなー」


相変わらずのんきなお父さんの返答に、吉元さんの眉はみるみるつり上がる。


「あんたんとこの会社はどうなってるのよ。
ぼやーと車の運転だけしてるからこんなミスするんだよ。
だから、娘もこんな体も脳みそも未発達になるのさ。
自分で集めたどんぐり、どこに隠したか忘れるリスみたいにね」


「私は‥‥そんなことありません。
酸素3分の1でも足りるんじゃないですか?」

と、素朴な疑問のつもりで口にしたが、吉元さんは高橋さんにマスクを付けながら間髪入れずに答えた。


「普通ならね。
でも、今日は渋滞で車、全然動かないじゃない」


吉元さんはカバンからガラ携を取り出すと、計算機機能で何か計算しだした。


「何、計算してるんですか?」

私の質問によっぽどイライラしたのか、吉元さんはまくし立てるような剣幕で返答した。


「酸素!
何分もつか計算してんだよ!
んーーー、30分もつかなー。

ねえ、さっきから一切進んでないんだけど、一体いつになったら動くんだい!」


「いやー、全然よめないんですよねー」

と、お父さんはニヤニヤしながら頭を掻いた。


「何、のんきに笑ってるのよ。
これで患者さんに何かあったら、あんたの会社訴えるよ」


「吉元さん、勘弁して下さいよー」


神経を逆なでするようにヘラヘラと笑うお父さん。

お父さんのKYもここまでいくと最強武器だ。
まさに濡れ手に泡。
糠に釘。


さすがの吉元さんもお父さんを攻撃するのを諦め、ミサイル発射を私に照準を合わせた。


「ねえ、ミジンコ。
あんたが信頼するそのネットワークとやらは、この状況を助けてはくれないのかい。
なんか打開策を教えてくれないもんかね。

まっ、がんばれーって言うのが関の山だろうけど」


鼻で笑う吉元さんに私は小さく舌打ちし、『ナイトの国』に不満をぶつけた。