カリス姫の夏

にらみ合う2人を仲裁するように、ピーピーとアラーム音が鳴った。音源は高橋さんの指に付けた機械からだった。


「下がってるな」

その機械に表示された数字を見た吉元さんは、自分に言い聞かせるようにつぶやいた。

そして、バッグから聴診器を取り出すと、高橋さんの胸の音を聞き出した。

聴診器を耳から外す吉元さんの顔は渋い。うなじの辺りをポリポリ掻きながら下唇を噛み、何やら思考を巡らせているようだ。


吉元さんの隣で目を閉じて車いすに座る高橋さんを見た。


ぐわーぐわーといびきを掻き熟睡している高橋さんは、時折「ぐわっ」と音を立てては数秒呼吸が止まっているようになる。そして、また何ごともなかったようにいびきを掻きながら寝ている……ように私には見えた。


「多部さん、酸素ボンベ使わせてもらいますよ」

と、吉元さんは突然言った。


「あっ……
ああ、はい、どうぞ、どうぞ」


吉元さんはお父さんの返事も待たず、自分の後ろにある小さめの酸素ボンベを席に引き寄せると、続けて病院から預かった荷物を探り出した。


そこにはビニール袋に入った緑色の管と、同じく袋に入った酸素マスクが一つずつ入っている。吉元さんに二つを見比べ、少し考えてから酸素マスクの方のビニール袋をやぶった。


酸素マスクと酸素ボンベをつなぎ、酸素ボンベの栓をねじるとシューと空気の流れる音がした。ところが、高橋さんにマスクを装着する前に、吉元さんは酸素ボンベの栓の横にある時計のようなメーターを見て顔色を変えた。


「ちょっと、多部さん。
このボンベ、酸素の残量3分の1しかないじゃない」