カリス姫の夏

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我が家の生活の糧『多部ハッピータクシー』と書かれた中古のワンボックスカーは、今日のお客様、高橋さんを乗せ快調に目的地へ向かった。


助手席に座った私は、ちらりと後部座席にいる高橋さんと見た。


高橋さんは入院中の初老男性。

もともとの性格なのか体調が悪いのか、高橋さんは必要最低限の言葉さえ発しない。この車内でもリクライニング式の車いすの背もたれを倒し、エアコンで寒いのかタオルケットを口元まで掛けお地蔵さんのように動かなかった。


隣に座る吉元さんの仕事ぶりを見て、お父さんの言葉にも納得がいく。病院からの引き継ぎ、搬送、車両内の準備など動きに無駄がない。車内でも血圧を測ったり、高橋さんの指につけたモニターを確認するなど完璧に仕事をこなしていた。


でも仕事ができるということと人間性は別なんだと、吉元さんを見ててしみじみ思う。


まっ、吉元さんと一緒に仕事するのは今日だけ。後、数時間我慢すれば、もう一生会うこともないはずだ。


私はお父さんに簡単に道案内を済ませると、さっさとスマホを取り出し『ナイトの国』に逃げ出した。