カリス姫の夏


吉元さんはどこに駐車しているのか知っているかのように、何も訊かずスタスタと前を歩く。


私は、この得体のしれないナースの正体を確かめずにはいられない。私はお父さんの袖口を引っ張り、小声で尋ねた。


「ねえ、お父さん。
あの吉元さんって何者?」


前を歩く吉元さんに視線を送ると、お父さんは悪魔ナースの素姓を明かした。


「あの人かい?
あの人は派遣のナースさん。

看護師専門の派遣会社ってあるんだよ。
そこに登録してて、紹介されて働いてる人なんだけど、以前お父さんの仕事も手伝ってもらってさ。

ほら、介護タクシーって入院中の人運ぶこと多いだろ。
体調悪い人は看護師さんについてもらわなきゃなんないんだ。

病院の看護師さんはついて来れないから、そういう時は、タクシー会社で看護師さん捜すんだよ。

吉元さんは派遣だけやってる看護師さんで……
あんまりいないんだ、そういう人。

で、お父さんと知り合いになって、派遣会社通さなくても、時間空いてればこうして来てくれるのさ。

口は悪いけど仕事できるし融通ききやすいし、助かってるんだよなー」


はい、はい。
そうですか。
だから、娘がミジンコあつかいされても文句言えないんですね。


お父さんがこのおばさんに頭が上がらない理由を重々承知した。


今朝の星占いのコメントが、聞こえてくるようだ。
『理不尽な扱いをされても、ガマン、ガマン。ラッキーパーソンはロングヘアの美女』