カリス姫の夏

病棟に向かい歩いている私たちに、受付のお姉さんが駆け寄ってきた。


「多部ハッピータクシーさんですよね」

お父さんの代わりに、来ていた特製Tシャツが返事した。『多部ハッピータクシー』とプリントされたその黄色いTシャツを私も着るように指示されたが、断固として断ったことを心底正解だったと思う。


「お車、移動していただけませんか」

とお姉さんは続けた。低姿勢だが、『じゃまなのよ』と本音が薄く開けられた口元から見え隠れする。


「ああ、はいはい、すいません。
いますぐ、移動します」

と、お父さんはへこへこ頭を下げた。


そして私の向き直ると

「おい、莉栖花、ちょっとここで待ってなさ‥‥」

と言いかけたが、私の背後に何かを発見したらしい。遠くを指差し命じた。


「あっ、いた!
吉元(ヨシモト)さん。

ほら、そこに立ってる女の人がいるだろ。
あの人が今日仕事手伝ってくれる看護師さんだから、お前、先に行って挨拶しとけ」


「えっ?」


振り返った私が認識するのも待ちきれず、お父さんは駆け足で駐車場に戻っていった



お父さんが指差していた方に目をこらすと、女性が背中を向けて立っている。


黒髪のさらりとしたストレートロングヘアを輝かせ、白いブラウスの袖口からは細く白い腕が真っ直ぐに伸びた長身の女性。グレーのタイトスカートを穿きこなしりんとした立ち姿は、仕事出来るオーラまんさいだ。