カリス姫の夏


その時、パソコンに向き直ったみゅーの声は1オクターブ高くなった。


「そういえばさ、飛鳥ホールの『織絵ルーナ展』行った?
明日までだったよね」


「きゃー、忘れてた。
なんか、こう、色々忙しくって……
明日までか」


頭の中のスケジュール帳を急いで開いたが、そこに明日の予定は書かれていない。


「明日……明日……
うん、大丈夫。
明日行ける!」


自分自身に言い聞かせるよううなづく私を、みゅーは心配そうに見た。


「えっ?行くの?
大丈夫?
こんなトラブルあった後なのに」


「うーん……

でも、ルーナ展は絶対行かなきゃ。
一生、後悔する‼
大丈夫!十分、気をつけるから」


「いいなー。
わたしも行きたかったなー」


「そっか、入院中だもんね。
外出とかはできないの?
飛鳥ホールなんて、ここから車で5分もかかんないよ」


私の提案に、みゅーの表情は渋い。


「うーん、先生はね、1時間位なら構わないって言ってくれるんだけど、お母さんがね心配性で……
明日だとお母さんもパートだからついて来れないし……」


食堂に奥にある洗濯室に向け、みゅーは聞こえよがしに声を上げた。


「ねー、おかあさーん。
明日、莉栖花と外出するなんてーー無理だよねーーー」


気づかなかった。
洗濯室には随分前からみゅーのお母さんが待機していたらしい。


みゅーとよく似たスラリと背の高いエプロン姿が洗濯室から現れ、たたみ終わった洗濯物を手に私達に近づいた。


「そうね、お友達と2人で行くのはね。
やっぱりちょっと心配だわ。
大人の人がね、できれば看護師さんがついてきてくれるなら話は別だけど」


みゅーのお母さんは物腰こそ柔らかいが、意思の強さが語気に現れている。いつもは自分の意見をズバズバ言うみゅーが逆らえないのも分かる気がした。でも、そんな強さこそ母親譲りなのかもしれない。


みゅーは「ほらね」と両眉の端を下げ、肩を上げながら小さく首を振った。

母親の反応なんてとっくに予測できていたと諦めているみゅー。そんな姿に、なんとかしてあげたいと私は思案を巡らせる。


「看護師……
看護師……
……んっ!

お母さん、看護師さんがついて来るなら行ってもいいんですね」


私は自分の思いつきに頬を紅潮させ、みゅーのお母さんに念を押した。


「えっ……ええ、まあ」


「みゅー、お母さん。
ちょっと待ってて‼
すぐ戻るから」


同じ顔でキョトンとする親子。
そんな2人を残し、私は食堂を飛び出ていた。