「ていうか、総一郎。
あんた、なんで窓閉め切ってるのよ。
これじゃ、タマミさんがもし自分で帰って来ても家に入れないじゃない」
華子さんは総一郎さんの前に立ち、責め始めた。総一郎さんも立ち上がり、応戦する。
「だーーってさ、窓開けたら外から熱風吹き込んで暑いんだぜ。
エアコン入れてるんだから節電だよ。
節電」
鬼の形相になった華子さんは総一郎さんを見上げ、タンクトップの胸倉をつかんだ。
「あんたは冷房利いた部屋にいるんだから、まだましでしょうが。
外行ってごらんよ。外!」
「もともと、お前の仕事だろ。
俺は関係ねーよ」
「何、言ってるのさ。
あたしが今まであんたのことどんだけ助けてきたと……」
エキサイトする口論を聞きながら窓を見ていた私に、一つの疑問が浮かんだ。
「ねえ、華子さん」
「んっ?」
と、2人は仲良く私の方を見た。
「窓って私達、この家に来た時開いてました?
華子さん、窓開けました?」
華子さんは不本意な質問に機嫌を悪くする。
「開けてないわよ。
なんでわざわざ窓、開けんのよ。
家の人が、開けてったんじゃないの?」
「でも、奥様がこの家出て行った時は涼しかったですよね。
なんか暑いなーって思ったの、タマミさんがいないことに気づくちょっと前で……
それまでは寒い位だったのに」
「なによ、じゃあタマミさん、自分で窓開けて出てったっていうのかい?
このおっきなサッシの窓だよ。
いくらタマミさんが、でっかい猫だからって」
「無理ですよね。
この際、なんで窓開いてたのかは置いといて。
窓が開いたのって、割と後の時間だったんじゃないかな。
この季節、エアコン使ってて窓開けてる方が不自然だし。
タマミさんが姿見えなくなったのは、飼い主さんがいなくなってわりとすぐでしょ。
わたし達、窓が開いてたから外にいるって決めつけてたけど、もしかしたらこの家にいるのかも」
華子さんはどっかとソファーに座りなおしひじ掛けに腕を乗せると、そっくり返って言った。
「ここの部屋は隅から隅まで捜したよ。
ゴキブリ一匹いないよ」
「んー、隣の部屋には絶対に行けないのかなー」
と、私は考えた。
「ああそうだね。
タマミさんはお嬢様だから、自分でドアを開けて出て行ってからきちんとドアを閉めたのかもね……ってそれこそあり得ない」
らちの明かない会話に痺れをきらし、総一郎さんが口を挟んだ。
「でもさ、華子。
こうして話してても見つからないんだから、とりあえずこの家の中も捜してみようぜ。
外捜すよりは楽だろうし」
外より楽という部分に心を動かされたのだろうか。華子さんは壁掛け時計をチラリと見ると、早口で言った。
「よしっ。
インシュリンまで37分。
3人で手分けして家の中、捜すよ」
