藍人くんの言葉に呼吸が止まる。騒がしいはずの境内が一瞬静まり返り、藍人くんの言葉だけが私の耳に響く。
苦しいようなうれしいような妙な感情に包まれ、藍人くんを見上げたまま微動だにできなくなった。
自分自身の言葉に驚き、藍人くんは顔を真っ赤にして「あっ、いや、何言ってるんだろ。そうじゃなくって」と、必死で取りつくろった。
「あー、でも莉栖花さんだって縁日見たいですよね。
ごめんなさい、勝手なこと言って。
ええっと、なんか食べたいものとかありませんか?
僕、買ってきます」
と、藍人くんは言ってくれるが、私は
「ううん、別に……」
としか、答えられない。
「そんなこと言わないで。
たこ焼きとか、リンゴ飴とか、かき氷とか……」
「うーん、じゃあ、綿あめ……」
「綿あめですね。
買ってきます。
ここで、待っててください。
すぐ、買ってきますから」
藍人くんは石畳につまづき転びそうになりながら、全速力で走っていった。
戻って来た藍人くんの手には綿あめの入ったビニール袋が。ビニール袋に描かれている猫のキャラクターが、藍人くんに妙に似合う。
はにかみながら、隣に座る藍人くん。
手渡された袋から綿あめを1つ取り出して、もう1つを袋ごと藍人くんに返した。
均等に分けられた綿あめが2人の気持ちを表しているかのようだ。綿あめは口に入れると一瞬で溶け、口の中に切ない甘さだけを残して消えていった。
