「あっれーー?
莉栖花じゃなーい?」


聞き覚えのある声に、私と藍人くんはS極同士をくっつけた磁石みたいに反発し離れた。


そおっと振り返ると思った通り、私のクラスメイトが3人。女子高生達は、色とりどりの浴衣に身を包み、ゴシップを見つけた嬉しさで口元からこぼれる笑いを隠せない。


私は、図に乗りすぎた自分の行動を猛省した。


そうだよね。
学校裏の神社に来るなんて、自殺行為だよね。
それどころか『私の彼氏見て』くらいの気持ちだと、思われる。


クラスメイトは品定めするように藍人くんをじろじろ見て、大きくうなづき合った。


「へー、莉栖花。
ふーん、そうだったんだ。
この子、この前教室に来てた1年生だよね」


「もう、莉栖花ってば、隠しちゃって。
マジ、みずくさいなー」


「いや、そんなんじゃなくって……」

私の否定は、軽く流される。


「いいんだって。
照れなくっても」


「教えてくれたらいいのに。
私達、友達じゃない」


クラスメイトから初めて聞かされた言葉に心底、驚いた。



友達だと思っていただけていたんですか?
夏休みに入ってから、会ってもいませんが。
今日だってお祭り行こうって、誘われてもいませんが。


「じゃあねー」


足取りの軽い彼女達は、クスクス笑いながらさっさと私達を追い越し階段を上っていった。


立ち尽くす私の表情を読み取り、藍人くんは「ごめんなさい。もっと遠くのお祭りにすればよかったですよね」と、謝った。

その顔は、後悔と落胆をグルグルとかき混ぜた表情をしている。藍人くんが悪いわけじゃないのに。


私は目一杯の笑顔に明るい声を乗せて、軽快に言った。

「ううん、いいの。
でもさ、足痛いから、参拝は省略しない?」


私の提案に、半分まで登った階段をそのまま同じルートで降りる。けれど、降り切った所で足が限界を迎えた。人目を避けるように、松の木の陰にある石塀に腰を下ろした。


隣に座ればいいのに、気を遣っているのか藍人くんは目の前に立ちつくしている。せっかくのお祭りをつまらない思い出にしてしまったと、心が痛んだ。


「ごめんね。
せっかくお祭りに来たのに。
いいよ、わたし待ってるから、露店とか見て来て」


私がすすめると、藍人くんは大きくかぶりを振った。


「ううん、いいんです。
僕、このままで」


「でも、せっかく来たのに……」


「いいんです。ここに一緒にいられるだけで」


藍人くんは私の目を見つめ、言葉を続けた。


「これ以上の幸せが……見つからないから」