カリス姫の夏


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私の通う高校の裏側、住宅街の真ん中にポツンとある神社は、歴史だけは古いらしいが敷地は狭く、お祭りの規模もさして大きくはない。


くじ引き、金魚すくい、焼きそば、綿あめ……
お祭り定番の露店(ろてん)がぎりぎり一軒ずつ立ち並びひしめきあうだけだが、それでも、この近くに目立った盆踊りや花火大会はないので、私も中学1年生までは毎年友達と来ていた。


夜のとばりは降りているというのに、夏を満喫しようと小中学生や幼い子供を連れた家族連れを中心に賑(にぎ)わっている。


薄暗い鳥居の下では、そわそわと落ちつかない様子で私を待つ藍人くんが立っていた。


「莉栖花さん、浴衣着て来てくれたんですか?」


藍人くんは私を見つけると、大きな目を更に見開いた。


「あのね、お母さんがね、どうしても着てけって言うもんだから。
髪もアップにしなきゃなんないって……
お母さんがね」

と、何度も『お母さん』を繰り返したが、藍人くんの耳には入っていないらしい。

藍人くんのTシャツにプリントされた笑顔の顔文字にさえ、意味があるのではないかと深読みしてしまう。


藍人くんは頬を赤らめ見つめるものだから、私も心臓が飛び出そうなほどドキドキする。調子に乗ったお母さんが軽くメークしたせいで、チークで色づいていた頬が更に赤くなった。


「ええっと、あー、じゃあ、とりあえず参拝しよっか?露店見てく?」

私が言う。


「人、いっぱいですね。
お祭りみたい……ってお祭りですもんね。
ははははは……」

藍人くんが乾いた笑い声を上げる。

「拝殿、遠いねー」

「お祭り、久しぶりだな」


それでなくてもぎくしゃくしている2人の会話がいろんなことを意識しすぎて、ますますかみ合わない。


鳥居をくぐり、私達は並んで歩いた。男性と並び歩く経験値が皆無の私は、恥ずかしくて顔を上げられない。


拝殿は100メートルほどの階段を登った一番奥にある。


履き慣れない草履。
着なれない浴衣。
人生初のシチュエーション。

このトリプルパンチに階段を上る私の動きはロボットのように無様になった。虫が止まりそうなほどゆっくりと一段一段石段を上る。