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昨日も深夜までネット仲間とのおしゃべりに花を咲かせていた。
ぎりぎりおはようと言える時間に起きた私は、ぼさぼさの頭を手ぐしで整えながら台所に入った。
「おかあさん、おはよー」
台所で食器を洗っていたお母さんは、挨拶を返す代わりにぶつぶつと愚痴を言った。
「まったく、いつまで寝てるのよ。
少しは家の手伝いするとか、なんかないの?」
「あーー、うーん」
適当な受け流しには慣れっこのお母さんは、よれよれのパジャマを着て目やにのついた顔で冷蔵庫をあさる年頃の娘に呆れて、あるいは諦めてそれ以上苦言を呈さなかった。
冷蔵庫から手に入れたプリンといちごミルクは食卓テーブルに置かれた。私は手のひらに貼りついたスマホを見ながら椅子に座ると、尋ねた。できるだけ、さりげなく。
「ねえ、お母さん。
わたしってさ、浴衣……持ってないよね」
「浴衣?」
不機嫌だったお母さんの顔が何かぱっと明るくなる。私のスマホを操作するポーズなど、気にも止めない。一方的に話す母は声は、機関銃と化し私の耳に連射された。
「浴衣?
あるわよ、あるある。
ほら、中2の時花火大会行くって言うから買ったじゃない。
でも、当日急に行かないって言いだして。
それから夏祭りも全然行かないから1回も袖通してないんだけど……
浴衣はサイズ調整利くから大丈夫よね。
まっ、莉栖花、あれからそんなに身長も伸びてないし。
デザインもね、定番のピンクの花がらにしたんだから古臭くないわよ。
へー、今日の夏祭り行くの?
あら、そう。
じゃあ、髪はアップにした方がいいわよね。
髪飾りあったかな。
ううん、いいのよ。
お母さんが後で買ってくるから。
何時に出るの?
準備は何時からしたら間に合うかなー」
口を挟む間も与えずしゃべり続ける母親を見ながら、浴衣があるかを聞かなければよかったと深く後悔した。でも、なぜだか私よりテンションの上がっている母に、水を差すような事は今さら言えない。
スプーンで口に運んだプリンは、なぜだかしょっぱい味がした。
それにしても、なんでこんなに喜んでいるんだろう。娘が夏祭りに行くというのが、そんなにうれしいものなのだろうか。だとしたら、今までそういった行事は避けてきた私は親不孝だったのかな。
