カリス姫の夏

華子さんは、床に這いつくばり、あたふたとカバンにしまっている。そんな姿を目の当たりにして、私は開いた口を閉じられない。


「華子さん、これって……
これって今日のコンサートのグッズですよね。
まさか、華子さん、これ買いに行ってたんじゃ……」


「だってさー、コンサートはもう終わってたじゃない。
それまでまじめに待機してたんだから、ちょっとくらいグッズ買いに行ってもいいでしょ。
私の仕事はほぼ終わりだったんだし。
どうしても欲しかったのよ。森高くんのグッズ!!」


小学生でももう少し上手に言い訳するだろうに、すっかり開き直ったいい年の大人はいつもより更に背中を丸めた。


「何言ってるんですか。
これって仕事放棄でしょ。
問題になりますよ。
派遣会社にチクってもいいんですよ」

と、責める私に、華子さんは

「子リス、あんたいつからそんな生意気な口が利けるようになったんだい」

と、反省の色さえ見せない。


「へー、そんなこと言っていいんですか?
お父さんに華子さんが所属してる派遣会社、教えてもらおっと」


踵を返し歩き出した私の手首をつかみ、華子さんは深く頭を下げた。


「待って。
分かったわよ。
申し訳ありませんでした。
反省してます」


華子さんは、棒読みのセリフにふてぶてしい態度をくっつけた。そんな姿に思わずニヤリとする。


「なーんか、心こもってないなー。
まっ、今日のところはいっか。
つけときますね」


くやしさに顔を真っ赤にしながら、それでも一言も言い返せない華子さんが新鮮で、私のテンションは更に上がった。ふっふふーーんと鼻歌まで出てくる。