―――しかし。



 私から眼鏡がなくなって、言われることが増えたのは「コンタクトにしたの?」というものと、「ないほうがいいかも」というものである。いつも眼鏡をしている人が急にその眼鏡を無くすると言われる決まり文句のようなそれ。

 そして私が千住樹という"異性"と一緒にいるということは、彼女らや回りにしてみればネタなのかもしれない。


 今日はここに至るまで何人に言われただろう。
 はっきりいって、関係ないじゃないか。



 私もそうだし、樹くんにだって迷惑がかかるだろう。
 現に樹くんもどうやら友人に何か効かれているらしいと奈美から聞いてしまったのも悪かった。変に気になってしまう。
 すんなり眼鏡を作れていたなら、と思う。
 いや、眼鏡だってあと数日我慢すればいい。

 あと、数日。
 その数日というのが結構大きいのだが。







「千住くんー」







 講義が終わり、学生がそれぞれ動き始めたなか、そうやって樹くんに何人かが話しかけているのを目にする。彼は席を立たず顔をあげるので、自然と声をかけた方に見下されるような形となる。

 声をかけたのは、見た目が少し派手な女子たちだった。






「今日空いてる?女子だけじゃつまらないから男子も誘ってるんだけど」

「俺はパス」

「えぇー、なんでよぅ」

「ノートうつすから」






 は?とでもいいたげな女子らがふとこちらを見ていたことに気づいたが、私は知らないふりをした。

 女子は「ノートはいつでもいいじゃない」といって粘っているが、樹くんは「ごめん、やめとく」ときっぱり断った。

 そこで、もしかして、と思った。

 女子の中でそうやって樹くんを誘う子は、何処か理由やきっかけといったものを探しているように見えた。恋するおとめ。そう思っていた私に奈美が横から「モテるのよ、彼」と私に伝えてくる。


 モテる。
 千住樹はモテるのか。
 妙に納得してしまった。


 確かに彼はモテるかもしれない。かも、というのはこう、なんというか、私がどうこう判断出来るようなものではないと思ったからだ。
 女子はしぶしぶ下がるだろうが―――と思ったら「それ」と目敏く気づいたような声を出す「どうして同じものを?」






「変わりにノートをとってるんだ」

「変わりに?でも凄く丁寧ね。えっと、誰か休んでたっけ?白井も上野もいたけど……」

「明日香さんのだけど」







 一瞬、詰まりそうになった。
 誰よそれ、と言わんばかりのそれに私は視界がモザイクがかっていてよかった、と思った。
 女子らが去ったあと、奈美から聞いた話だが、女子の一人が私のことを見ていたという。ああ、泣きたくなる。女子の色恋は本当に怖いのだ。


 一方、樹くんはというと。
 全く気にしていないらしい。