「こんばんは」

 玄関で声をかけて、部屋へと入っていった。

 リビングのドアを開けると陽菜と航太の姿。


 珍しい。
 航太が部屋の中にいる。
 最近じゃあまり家に寄ったりしてなかったのに。

「歩夢」

 僕を認めた航太の表情がホッとしたように緩んだ。

 何かあったの?
 陽菜は?

「歩夢、呼んじゃったの?」

 非難めいた声がかすれ気味に聞こえた。

 僕が来たらダメだった?

「1人残しては帰れないだろ」

「いいのに、大丈夫だよ」

「どうしたの?」

 いつもとは違う会話に疑問を抱きながら、2人へと近づいていくと、陽菜はソファに座っていて、バツの悪そうな顔で僕を見た。

「歩夢、冷やすものがあるか?」

「冷やすって何を?」

 唐突な言葉が理解できなくて聞き返すと、陽菜が航太の制服の袖口をくいくいと引きながら、

「いいよ。自分でするから」


 言ったけど、状況がよく呑み込めない。