「麗華?なんで病室に入ってないんだよ?」




しばらくして、亜貴が戻ってきた。


あたしは顔を上げて、亜貴の顔を見た。


「麗華・・・?」


「あのね、祐兎が・・・
 もういいから亜貴と一緒に帰れって」


「・・・そか。目覚ましたんだな?」


あたしはゆっくりと頷く。


やばい。


また泣きそうだ。


亜貴は息を一息つくと、
あたしの頭を撫でた。



「帰ろう。麗華。あいつは大丈夫だよ」



あたしは弱々しく立ち上がって、
亜貴に手を引かれて歩いた。



病院の廊下は、
冷たくて、すごく長い。



鼻につくような、消毒か何かの匂いが漂っていて、
あたしは息苦しさを感じた。



病院の外に出て、亜貴はゆっくりと、
あたしの歩幅に合わせて歩いてくれているように思えた。






「なぁ、麗華」


「・・・」


「モッチーから、何か聞いたか?」




あたしは黙っていた。


唇を噛み締めて、
ただじっと、堪えていた。



口を開けば、
意味も無く涙が溢れてきそうだったから。




亜貴はそんなあたしの様子から察したのか、
歩きながら話を続けた。





「あいつ、心臓病なんだ。
 俺とあいつは小さい頃からの幼馴染で、
 だから俺だけはあいつの病気のこと、よく知ってた」




そうだったんだ。


2人はそんな昔から仲良いんだね。


だから、亜貴はあんなに冷静で、
対処の仕方も知ってて、



誰よりも祐兎のことを配慮してあげられたんだね。





「あいつはさ、親がいねぇから、
 だから一人ででっかい家で暮らしてる。
 中1の頃に両親、病気で亡くなったから、
 そのショックは大きかったんだ」







次々と出てくる、あいつの過去。



あんなに、冷静で、
あんなに自由な感じがしたのに・・・。




「両親、心臓病でさ、だから自分も、
 死ぬんだなって、そう悟ってしまった」



「・・・・・」





「どんどん、荒れていくあいつが、
 突然俺に言ったんだ。


 “バンドをはじめたい”って」