あたしが、お兄ちゃんと同じ高校に受かったことを知った日。
お兄ちゃんはあたしを褒めてくれて、一緒に喜んでくれて、
そして静かにこういった。
『新しい生活が始まるんだ。
だから、もうこんなことするなよ?』
お兄ちゃんはあたしの手の傷を撫でた。
その時、もう痛みはしないはずだったのに、
チクリと痛んだ。
お兄ちゃんはその手首をそっと掴んで、
あたしにリストバンドをくれた。
『合格祝い。これからは、
前だけを見て、頑張ろうな?』
胸が痛む。
それでも、あたしは頷くことしか出来なかった。
高校に入って、
いじめとかする人はもう誰もいなくて、
あたしはその行為をしなくなった。
お兄ちゃんがくれたリストバンドが、
あたしの昔の記憶を押さえつけてくれていたんだなって思う。
だけど、再び手に入れた穏やかな日常は、
そう長くは続かなかった。
『麗華!!お前・・・っ何でまたこんな・・・!!
っ約束しただろ!?』
また、悪魔が囁いた。
ううん。
今度は、自分の意思だったのかも知れない。
『麗華・・・言えないのか?俺には頼れない?』
いえない。
いえるわけない。
でも、心の中で、何度も叫んだよ?
助けて、お兄ちゃん!って・・・。
『ごめんなさい。でも、なんでもないの』
なんでもない。
そう、なんでもないの。
『あたしは・・・大丈夫だよ・・・』
ほら、あたし、笑ってるでしょう?
今までとかわらない麗華でしょう?
ねぇ、お兄ちゃん。
『麗華!俺の目を見て、言え』
『え?』
『“なんでもない、大丈夫”って、
俺の目をちゃんと見ていえるのか?』
出来ない。
あたしはもう、出来ない。
あたしにはもう、
お兄ちゃんを視界に映すこともできない。
だって、汚いでしょう?
あたしはもう、汚れちゃったんだもん。
ダメな、妹でごめんなさい。
いえなかったの。
お兄ちゃんの友達に襲われました、なんて、
死んでも言いたくなかったの・・・。

