歌い終わったあと、しんと静まり返った。


余韻だけが、スタジオ内に響く。


あたしはこの歌詞の通り、
男の心情を表せたかな?


みんな、さっきから何も言ってくれない。


やっぱり、ダメだった?


あたしじゃ、このバンドではやっていけない?




「あの・・・」


祐兎がため息に似た息をついた。


そんなに酷かった?
亜貴は褒めてくれたんだけど・・・。


やっぱり、ボーカルを預ける祐兎にとっては、
気に入らなかったかな?


あたしは軽くショックで、思わずうつむいた。


祐兎があたしに近付く。



「これ、次のライブで使う曲の音源」


「え?」




あたしはふっと顔をあげた。


そこには、
CDを手にぶらぶらと振った祐兎が立っていて、


その奥では、武田くんも磯部くんも、
にこっと笑っていた。


亜貴は小さく見えないようにVサインを出してくれて、
やっぱり苦笑していた。



「いい・・・の?」


「まぁ・・・お前はちっと腹立つ。せやけど・・・
 ちょっと腹立つけどまあ許してやるよ」


出た。
また大阪弁。

てか、言い直したし。



こいつもちょっとはかわいいとこあんのかな?
なんて思ったり。


「ふーん。ま、まあ、あんたよりも上手に歌ってやるわ」


「あー?なんやて!?」


「ほら出たー!!」


「今のなし!ちょっ!!逃げんなこら!!」



小さなスタジオで走り回るあたし達を見て、
他の3人は小さく笑った。


本当に、こいつムカつく!!



・・・でも、ここのメンバーに、正式になったんだよね?


あたし、喜んでもいいんだよね?


今度は、今度こそはあたし、
本当のバンドをやれるんだよね?


ドラムじゃなくても、ここで、
ボーカルとして・・・。




「わっ!!おま・・・急にとまんなよ」


「・・・っごめん」




あたしは祐兎の手にしていたCDを受け取って、
胸の前で抱きしめるように持った。


それを見て亜貴が苦笑する。


なんか、出逢ってそんなに日もたってないけど、
あたし、この人たち好きかも。



この中でならあたし、
本当にずっと続けていけるかもしれないと思ったのは、


みんなにはまだ秘密だけど。