「わりー! 待たせた!」
後悔を引きずりながらも覚悟を再認識したところで、篤志が慌てた様子で教室に入ってきた。
きっと、9組の教室から急いで走ってきてくれたのだろう。
あたしの前まで来て「待たせてごめん」と言い直す優しさが、それを物語っていた。
「大丈夫だよ。ホームルームが長引いたんでしょう?」
「そうなんだよー。先生、最後の日まで話長くってっさ~」
「篤志の担任の先生、授業でも話長かったもんね。きっと最後だから、余計に喋りたくなっちゃったんだよ」
「聞いてるこっちからしたら、ありがた迷惑だけどな」
篤志はうんざりだと言いたそうにしながらも笑い、大きなエナメルバッグをあたしの隣の席の上に置いた。
3年間部活で使用したそれは、すっかり汚れを纏っている。
「なあ、彩愛(あやめ)」
おもむろに呼ばれた名前に肩が小さく震える。
聞き慣れた声で呼ばれているはずなのに、今日は何だか違う人のもののように聞こえた。
次に出てくる言葉に怖じ気づいて、立ったままの篤志を見上げる表情が強張る。



