「……どうして、言っちゃったんだろう」
篤志はまだ来ない。
人気がなく静かな教室に一人ぼっちで居ると、余計なことばかり考えてしまうからダメだ。
行き場がない悩みに答えてくれる人など居ないのに漏らした言葉は、あたしの周りを責めるようにして浮遊するだけ。
どうしてかなんて、本当は自分が分かってる。
でも、認めたら篤志を困らせるだけだ。
だから気持ちを伝えてしまったことに、今さら後悔してる。
“一緒に居ようと思う限り、ずっと一緒に居るんじゃない?”
遠くで、小さい頃の篤志が言った気がした。
ねえ、本当にそんな思いだけで一緒に居られるの?
……そんなわけないよね。
だってあたしは一緒に居たいと思っていても、篤志から離れていこうとしているんだもの。
二人共が“一緒に居たい”って思わない限り、一緒に居るなんてこと不可能なんだから。
篤志は、県外の大学で野球を続けることを決めた。
甲子園で注目を集めた篤志のもとにはいくつかの大学からスカウトがあったらしくて、その中から篤志が行きたいと決めたのは、地元から遠く離れた県外の大学だった。
さすがにあたしも、もうその背中を追うことなんて出来なかった。
好きな人を追いかけるためだけに人生を決めるなんてこと、心ではしたいと思っても頭ではしちゃいけないということが分かっていたから。



