篤志は真面目な顔のままで口を開いた。
そのわりに、飛び出してきた声はいつになく優しい。
「これは、卒業証書だ」
「卒業証書……?」
そんな馬鹿な。
篤志が持つそれは、明らかに今日受け取ったばかりの卒業証書とは違っている。
だって画用紙の質感はばっちり分かるし、ちらちらと見える文字は完全に手書きのものだ。
篤志のオリジナルとしか思えないそれの、何が卒業証書だというのだろう。
……っていうか、さっきのチャック音はこれを取り出してた音だったのか。
「これは、彩愛の卒業証書なんだ」
「いや、意味が分からないんだけど……」
真顔で言われるけど、篤志が言っていることは完全に理解不能で謎だった。
「今からこれを彩愛に授与するから、黙って聞いて受け取れ」
「……」
……もう、どうにでもなれ。
よく分からないことを勝手に言い出す篤志には手の付けようがなくて、そう投げやりに思った。
あたしは謎の卒業証書なんかよりも、告白の返事が欲しかったんだけどな……。
篤志が来るまでの間に悶々と悩んでいたことがとても馬鹿らしく思えてきて、篤志がわざとらしく咳払いをする中で盛大に溜め息を吐いてやった。



