足音が一度遠ざかり、チャックが開かれる音が遠慮がちに響いた。
そしてまた足音が近付いてくると、木製の教壇が軋んで悲鳴を上げる。
何となく、篤志が元居た場所に戻ったのだと思った。
きっと目を開ければ、机を挟んだ向こう側に篤志が立っているはず。
気配だけでそんなことまで分かるというのに、二人を隔てている机の存在がもどかしかった。
この距離があたしと篤志の心の距離のようにも感じられて、何だか嫌だ。
篤志が今どんな顔をしているのか分からないのが、もっとあたしの心を落ち着かなくさせる。
「彩愛、目開けていいぞ」
明るい声でオッケーの合図が出される。
だけど妙に瞼が重く感じられて、あたしはゆっくりと目を開けた。
思った通りの場所に篤志が居るのが視界に入る。
さっき聞こえた声からは想像出来ないほど真面目な顔をしていて、それは今朝に見たものと同じだった。
だけどあたしの思考は、篤志が持っていたものに一気に引き込まれる。
「……それ、何?」
篤志が両手で持っているのは、A4サイズの画用紙。
それを横向きに持って、篤志はあたしと向き合っていた。
これに似た光景を、あたしは今日見たばかりというか、経験したばかりだ。
さっきここに立たされたときよりもさらに意味が分からなくて、まじまじと篤志の顔を見る。



