手紙を読み終えるまで、
何も言わずに無言で見守り続けた養母が

「行くのですか?」っと重い口を開いた。



全ての書類を服の内側ポケットに折りたたんでいれると
車の鍵を握りしめる。



「行って来る、養母さん。

 徳力の当主、甥を此処に連れてくる。
 最上階、迎え入れられるように準備をしておいてほしい」


養母(はは)は、俺が告げた言葉の後、
静かにこういった。



『飛翔さま。
 行ってらっしゃいませ』っと。



飛翔ではなく……様と……
本家のものを敬う呼び方で。




そんな養母(はは)の変わり方に寂しさを
覚えながら俺は地下駐車場までエレベーターで降りる。




愛車のBMWのMロードスターに乗り込んで、
アクセルを踏み込んだ。


もう殆ど覚えていない、生まれ育った場所へ。


車は、
スピードを加速していく。



俺自身でも制御できない
感情の押し寄せるままに。