「ミクをほのめかしているようにしか思えません。龍が目覚めるとき、それはマナが自由になるときです。そうなれば、マナが人間を襲い脅かす可能性は高いと思います」

「その真意はわからないけど……そうなるとしたら、厄介だね」



ヤトの言葉に先輩は相槌を打った。マナが何を考えているのかはわからないが、人間を襲うことを目的としてミクに言い寄っているとしたら、それは止めなければならない。

しかし、そう思っても介入することは不可能だろう。そうしたら、ミクに一生寝るな、と言っているようなものだ。

それに、ミクはこのことにまったく気づいていない。中心人物が何も知らされていないのは危険極まりないが、紫姫の末裔だと伝えた場合どう思うのか心配になる。

そして、自分の力のことで今以上に悩み苦しんだらこっちが罪悪感で押し潰されそうだ。


ミクなら、絶対に自分を責めるだろう。世界の存亡が自らの身で決まってしまうのだから。



「どうしたもんかな……教えるべき?それとも黙っているべき?」

「ところで、カインさんは妻や子供たちが紫姫の末裔だって知ってるんでしょうか」



先輩がうーんと頭を悩ませているとき、ふと思った。カインさんがこちら側にいるとしたら心強い味方になってくれるはず。

他人が教えるよりは、父親から教わった方がいいだろう。



「それを俺に聞けって言うのか?無理だろ無理無理、お断りします。初耳だったときの反応怖いもん」

「……確かに」

「それに、にわかには信じ難い内容ですしね」



はあ……と同時に深いため息を吐いた。この話は早急に解決させたいことなのに、一番気乗りしない話だ。

先伸ばしにした方が賢明なのだろうが、放っておいて後々後悔してしまってはもとも子もない。


俺たちは頭を悩ませた。



「……じゃあ、スリザーク家に行ったときに話すってのはどう?」



先輩は考えあぐねいた結果、そう提案してきた。それなら、真実を知っている人が多いからなんとかなるかもしれない。



「ちなみに、カインさんもミクの兄のトーマも来るからね」

「そんなに招待してたのかよ」

「いいじゃん、彼らには家と呼べるところがないんだから」



ヤトがぶつくさとぼやいたが、それは俺も同じこと。俺も招待されているひとりだ。



「俺も行きますよ」

「わかってる。もう伝えてあるから、きっと向こうは楽しみにして待ってるよ」

「早っ!まだ三ヶ月ぐらいあるだろ」

「早くて損はないって。それに、三ヶ月なんてあっという間さ」

「……」



先輩がヤトの肩をトントンと叩いた。ヤトは黙ったままそっぽを向く。この二人、仲が悪いのかそれともヤトだけが照れ隠しをしているのかよくわからない。

俺にも兄弟がいたらなあ、と思わずにはいられなかった。

そうすれば、家業のことは兄弟に任せられたのに……あんなことになるとは、このときの俺はこれっぽっちも思っていなかった。



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ミクside



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