ちなみに、『決闘』と言っても殺し合いではなく、力の腕試しだ。どちらかの命で勝敗が決まるという物騒なものじゃない。『決闘』は終戦を記念して開催されたもので、その点では戒めであり皮肉が混じっているようだ。

だから、決してコロシアムで殺し合いをするというベターな駄洒落ではないのだ。



「先生……思いつきでものを言うのは止めてください」

「ヤトはわかってないなあ。そんなことするわけないでしょーが。ラルク君にやってもらおうとか最初は思い付いてたの。ただアポ取ってなかったから良い答えが来る可能性が低いと思って」



あ、会長の名前ラルクさんだっけ。全然覚えてなかったや。

会長改めラルクさんは暫し黙って先生の話を聞いていたけど、ついには首を縦に振った。



「その勝負、受けてたちます」

「いやー良かった良かった。役者は揃ったね。あとでリハとかやるから来てね」



余程意気揚々としているのか、アポイントメントを略したりリハーサルを略したり……先生は目を輝かせてこの場を去った。

アラン先輩はため息を吐く。



「本当に殺してくれるなよ」

「それはこちらのセリフだよ。しかし、どうやって『決闘』するんだ?」

「魔法しかないだろう」

「それって危険なんじゃ……」

「だからこそのリハーサルだろうな」



アラン先輩は私の問いに淡々と答えた。でも、瞳の奥は鋭い光を放っている。よく見れば双方から火花が散っているような……

……大丈夫かな。



「あ、いたいた。先生からは大体話聞いたよ。リハーサルはもう少しで始まるってさ。場所は校庭で、急ピッチで先生たちが会場を作ってる」

「会場って、闘技場の再現ですか?」

「そうそう。観客席を作ってる真っ最中」



先生が去ってからしばらくして、ソラ先輩が制服姿で現れた。手にはもともと着ていた黒い軍服を持っている。それをラルクさんに渡して窓の外を指差した。

教室の中から校庭を眺める。


そこには、米粒大の先生たちがせっせと会場を作っている光景があった。主に風の魔法を使える先生たちが中心となって会場作りに精を出している。そこにはなんとお兄ちゃんの姿もあった。

全然気づかなかった。校内にいたらこんなにも外の音が遮断されているのだと驚く。



「アランは青、きみは黒。意味わかるよね?」

「ケルビンとリチリアだろ?そう言えば、体育祭のときと同じ色だな」



アラン先輩の答えにソラ先輩は確かに、と頷いた。

青のケルビン、黒のリチリア。この2つは昔あった国だ。今は国っていう概念はなくなったけど。

かつて、ケルビンと隣国のリチリアは仲が悪かった。あることがきっかけでさらに悪化し、戦争にまで発展した。

そのきっかけは、紫姫。さらに言うと、紫姫の実母がリチリアをほのめかしたんだ。実母はケルビンに身を寄せていた紫姫を殺そうと目論んでいて、さらには狂ってしまったのか、この世界を滅ぼそうとした。

紫姫の一族の紫族が住んでいた空飛ぶ要塞、『島』。その『島』は光線を……レーザーだね。それを放つことができた。威力は世界を抹殺できるほどだとされ、暴走した実母を止めるべく、紫姫は立ち上がった。

実母はケルビンとリチリアの戦争に乗じてそれを遂行しようと動き出した。その戦場となったのは、ケルビンの首都であるセンタル。そこでケルビン王と紫姫たちは日々を過ごしていた。

でも、そのセンタルには秘密があったんだ。

それは、『魔物』をその地に封印していたということ。封印がどこかに眠っていたんだけど、『島』が発生させた突風によってほとんどの封印が解かれてしまった。その結果、センタルの地面から『魔物』が復活してしまった。しかも『魔物』が現れたのは、両国の兵士がぶつかり合っていたところ。

幸い、センタルの住民は避難していたから被害はなかったけど、兵士たちは重軽傷を負った。それからは、戦争をしている場合ではなくなった。『魔物』は本来封印されるべき存在。そんな『魔物』がセンタルから脱出すれば、世界はまた混乱に陥る。

共通の敵を見つけた今、それはなんとしてでも阻止しなくては。

と、ケルビンとリチリアの若き王は同意見に達し、手を組むことになったんだ。それが、終戦の告げ、和解の証拠。

柔軟な若い二人の王は見事『魔物』をたおすことに成功した。その経緯は以前にも説明したと思う。


ちなみに、私たちが体育祭で使った闘技場は、センタルがあったところ、ということになる。今はもうその都市はなくなったけど。