「これからどうするか……」

「まず朝が来ないことには行動に移せませんよ」

「でも、綺麗……」



私は目の前の大海原を見ながら呟いた。満天の星空が海にも映っていて、どこからが海でどこまでが空なのかまったく区別がつかない。

この島は、まるで宇宙に浮かんでいる浮島のようだ。



「暢気に言ってる場合かよ。助けも来ない、十分な水も食糧もない……そのうち飢え死にするぞ」

「俺のマナを侮ってもらっては困るな。犬の帰巣本能はピカイチだぞ」

「でも先輩、頼みますから間違っても魔法を使わないでくださいよ」

「わかっている」



もし、先輩が魔法を使ってしまったらあの犬が戻って来てしまう。そうなると今までの移動距離はおじゃんになってしまうのだ。マナは主人からどれだけ離れていても必要とされると必ず戻って来る。

だから、迷子のマナっていうのはどこにも存在しないのだ。



「目が冴えて全然眠れる気がしねー」

「これだけ星の光で明るいんだったら、島の奥に向かうことはできると思うけどな」

「バカかよ。何が潜んでるかわかんないんだぞ。蛇とかサソリとか」

「それなら、ヤト君が撃退すれば済む話じゃん」

「おまえなあ……何のために授業があるのかわかってんのかよ。未熟者の俺たち生徒を一人前にするためにあるんだぞ?そんなまだまだ半人前にもなってない俺が魔法なんて使ったらこの島は火の海になる」

「自信がないんだね」

「はあ?」

「自分のマナを信じられないの?自分を信じられないの?子供だからって甘えてたらいつまでたっても未熟者だよ。そんな考え捨てた方が得策だと思う」

「……おまえに何が「やめろ。それ以上言うつもりか?」



先輩が強引にヤト君の言葉を遮った。ヤト君は苦虫を噛み潰したような苦渋の表情をした後、ふいっとそっぽを向いた。


ヤト君、わかってるよそのくらい。私は魔法を使えない。だから魔法を扱うときの恐怖も、緊張も、不安も知らない。

魔法で自分の自身を傷つけてしまったり、或いは大切な人を傷つけてしまったり……リスクは大きいってことを言いたかったんだよね?

私はお父さんの体験を知っているから、尚更それは理解しているつもり。でも私は扱えないから部外者にも程がある。なんて私の立場は曖昧過ぎるんだろう……


でもね、この島には何かあるはずなんだよ。わざわざあの龍がここまで運んだんだから。



「ヤト君は来なくてもいいよ」

「……は?」

「私は行く。こうやってグズグズしてたってなんにもならないよ。時間の無駄だよ。それなら危険を侵してでも進みたい」

「俺も賛成。こんな大きな島なんだ、どっかに真水があるかもしれない」

「先輩……ひとりだけ残っててもしょうがないか……わかった、俺も行く。ただし、勝手にどっか行くなよ」



ヤト君は立ち上がった私たちを見上げてため息を吐いてから、すくっと立ち上がった。三人寄れば文殊の知恵ってね。

今が何時なのかまったく見当もつかないけど、でも何かしてないとイライラしてしょうがない。朝がいつ来るかもわからない今、立ち止まってたって意味ないよ。それなら前に進むべきだ。



「先頭は俺、後ろは先輩お願いします」

「わかった。ミクは真ん中にいろよ」

「はい」



こうして、探検隊が結成された。