「めっちゃくちゃ微妙ー」

「まあまあユラ、負けなかっただけマシだよ」

「良くないわよ!同率一位ってどゆこと?天は私たちを見放したわけ?」

「快晴だったからそう言うわけじゃねーと思うけど」

「あたしが言ったのもそう言うわけじゃないわよソウル」

「え?違ったの?雨降ったら中止だったんだけどな。不戦勝と不戦敗で終わってたかもしんねーじゃん。それよりはミクの言う通りマシじゃね?」

「私が言ったのもそう言うわけじゃないかな……」

「あれれ。俺ってもしかして捉え方がおかしいんかな」

「今気づいたのか」

「……ヤトは酷いやつだな」

「それも今気づいたのか」

「うわー自覚ありかよ!趣味悪っ」



そんな会話がおかしくて皆で笑う。やっぱりこのメンバーだと心地良い。


そう、私たちナヴィ校とお兄ちゃんのいるエネ校は同率一位だったのだ。最終的に点数が一緒になってしまったらしい。最後のリレーは先輩たちが最後の最後で黒に負けてしまったけど、でも充実した大会だったから悔いはない。

チサト先輩が腑に落ちなくて何度も点数の計算をしていたけど、何度やっても同率になるから最後は認めていた。



「まあ、来年に期待ってことで」

「ソラ先輩は出ませんけどね」

「チッチッチッ。チサトちゃんはわかってないねー。もしかしたら出るかもよ?」

「単位を落として?」

「ひど……そうじゃなくて、アランが教員の綱引きに出場するかもってこと」

「全然わかりませんでしたー」

「棒読み?まさかの棒読み?」

「先輩はいつもわかりづらいんです」



チサト先輩はソラ先輩の相手をするのに疲れた表情をしている。ソラ先輩の仕事の手が止まっているのに対して、チサト先輩の手は休んでいないことに感心した。話題に出されたアラン先輩は一瞬2人を見たけど、テントを畳む仕事に専念していた。

私はテントの鉄棒をクルクルと回してコンパクトに収納させて地面に置いて、ふう、と一息ついた。案外重い。

鉄棒を何本か一緒にルル先輩と持ち上げるけど、日差しを浴びて熱くなっていてなかなか運べずにぐずぐずしていた。



「あーもー重いわー。あたし力仕事向いてないのよー」

「私も普段から鍛えてないので……」

「情けないなおまえらは。俺に貸してみろ」

「先生やってくれるんですか?マジ神です!」

「こんな俺が神だったら本物に申し訳なく思うね」



先生は苦笑いでそんなことを言いながらも軽々と鉄棒の束を持ち上げた。熱っ!と言いながらも颯爽と船まで運んで行ってしまった。

ルル先輩とラッキー!と笑い合う。


それから先生が戻って来る頃には片付いて、それぞれが荷物を持って競技場を見渡しているところだった。

ここは昔の遺産。ずうっと昔からある建築物なんてそうそうないから、改めてじーっと観察していたところなのた。



「ここ、昔は寒くて雪も降ってたんですよね」

「そうよ。でも紫姫が戦っていた相手に……その相手は紫姫の母親って話だけど……地形も自然も根こそぎ破壊されてしまって、見た目は回復したんだけど元通りにはならなかったらしいわね」



私が思い出したように言うと、チサト先輩が解説してくれた。

そう、英雄である紫姫が対峙したのは実の母親だった。その母親は世界の破滅を企てていて、それを紫姫が止めたんだ。

でも紫姫自身は母親の妹にあたる人に育ててもらったから、いざ会ってもあんまり母親だっていう実感はなかったらしい。その最期を見ても、真っ先に駆け寄ったのはボロボロに傷ついた育ての母親の元だったそうだ。

その事実を知ってショックだったけど、私も全然覚えていないお母さんがもし今生きていて、ひょっこりと目の前に現れても実感は湧かないかもしれない。お母さんだって言ってくれないとすれ違ったとしても見向きもしないかもしれないなあ。

それに、実の母親が敵でしかも自分を殺そうとしてきたらそっちの心配をするのは無理かもしれはい。それなら目の前で傷ついている育ての母親を心配することは道理というものだ。



「じゃあそろそろ行こうか。船が俺たちを置いて行っちゃうかもしれないぞ」

「それはあり得ませんって」

「ミクは疑うことを知らないのか?常に疑ってかかるのは大事だぞ」

「それで疑心暗鬼に陥ったら見事に自業自得になります」

「だが、頭のどこかで物事の是非を考えるのはいいことだ。数学の問題を解くときだって答えが分数になったらあれ?ってなるだろ。そういうのは大抵キリのいい数字になってるから」

「まあ……そうですけど」

「そう言うことだ」



先生はうんうんと頷くと、んじゃ行くかとひとりで歩いて行ってしまった。慌ててその後ろからついて行く。

でも自然と疲れから足取りが重くなっていき、いつの間にか最後尾になっていた。今日は疲れたから早く寝よう。それに砂で髪がゴワゴワとしているし肌も焼けているのか少しピリピリとする。

これはお風呂でしみるのは確定だな、と思っていると、横にヤト君がぴったりとついて来た。



「おまえ疲れてんな」

「そうだね……ヤト君は全然疲れてる風に見えないけど。あんなにいろんなのに出てたのに」

「俺はわりと図太い方だからな。疲れてもすぐに出てこないだけかもしれない」

「それはそれは御愁傷様。筋肉痛は歳を取るほど遅くなるっていうもんね」

「おい、俺のは疲れってだけで筋肉痛とは関係ねーぞ」

「私は背中が筋肉痛になりそう……」



綱引きのときを思い出して肩を揉む。肩凝りも酷くなりそうな予感がする。


……そう言えば、私の誕生日は今日だったなとふと思い出す。7月15日は私の誕生日。でも本人が忘れてるなら皆も忘れてるよね。そもそも知ってる人は少ないし。


歩きながらう~んとのびをして背中を伸ばした。ポキポキと関節が鳴る音がする。まあ誕生日プレゼント欲しいってわけじゃないけど、貰えたら嬉しいよね。

そもそもユラにだってお誕生日おめでとうの言葉しか送ってないからお互い様だし。ユラが何もいらない、言葉だけでいいって言ったからそうしたわけだし。

私も気持ちだけ受け取ろうと思ってる。物で示して欲しいほどやわな人間じゃない。プレゼントをくれなくたって気にしないし。


今日で17歳か。


この日は、私にとっては世界観が変わった特別な日となった。