いよいよ私の出番が次に迫り、バトンゾーンの中でバトンを渡してくれる子を待とうとお尻についた砂を払いながら立ち上がる。



「頑張れよ!ユラにバトンを渡してやれ」

「うん!ソウル君もヤト君にちゃんと渡してね!」



なんだか清々しい気分になってソウル君に笑いかけると、ソウル君は目を丸くして驚いた後、視線をスッとそらした。

ほんのり顔が紅い気がするけど、それを見て軽いデジャ・ヴを思い出す。その光景は、ヤト君に玉入れの直前にからかわれてあかんべーをしたとき。

確かヤト君もこんな表情してたな。それがおもしろくって、バトンゾーンの中で待機してるときに思わず思い出し笑いをしてしまった。ニヤける口元を手で押さえる。

そして、トラックのコーナーを曲がって来るクラスメートに手を振った。


私はここにいるよ!ちゃんと、皆と同じところに立ってるよ!


疎外感なんて、もう感じない。疎外されるのが嫌いなら、自分から飛び込めばいい。それは難しいことのように思うけど、本当は物凄く簡単なことなんだ。


そのことがじわりじわりと胸に染みる。どこから染みるのかというと、この手にしたバトン。皆の期待を背負うってプレッシャーになるけど、裏を返せば応援を一身に受けてるってこと。

それは、気持ちのいいことなんだよね。

皆で何かをすることは、達成感が半端ないってことをヤト君が一番にゴールテープを切ったのを見て実感した。


私は、この世界の一部。そして、私はこの世界にひとりしかいない。ひとりしかいないっていうのは寂しいことのように思うけど、ひとりを皆が大切にするから、ひとりは皆のために必死になる。


ひとりは皆のために、皆はひとりのために。


これは紫姫の言葉だ。この言葉を胸に戦士たちは戦争に赴いたと教科書に書かれていた。私はこの言葉はとても大切な言葉だと思っている。学校は、社会は、世界は、この言葉の上で成り立っているんだ。