Candy of Magic !! 【完】




「負けた……」

「もう!ホントに負けちゃうじゃないのよ!」

「これはもう先生たちに託すしか……」

「先生たちも綱引きやるんですかヘレナ先輩!」

「知らなかった?」

「はい、初耳です……」



判定負けして呟いた私にヘレナ先輩から朗報が流れてきた。生徒だけの体育祭かと思いきや先生も出るとは。だからタク先生はいつも白衣を着てるのに今日は着てなかったのか!

と変なところで納得した私。ぶつくさと言っているアン先輩の愚痴を受け止めていると、先生たちの集団が集まっているのが目に入った。

黒もやる気満々みたいで、青の集団を睨み付けていた。青も負けじと睨み返している。それをあの威勢のよかった校長先生がひやひやとさせながら見守っていたとは知るよしもない。

あの憎らしげなポニーテールが目に入ると、アン先輩が苦虫を噛み潰したような顔で悪態をつく。



「あの校長ほんっっとにムカつく。見てよあの顔。すました顔しちゃってさ」

「あの人ハチマキ似合ってませんよねー」

「あ、ナイ先輩」

「やあやあお揃いで。ミクちゃんはあんな大人になっちゃダメだぞ?」

「あんたみたいになってほしくもないわよ」

「え、どんな僕ですか?」

「めっちゃ細か「わーわーわー!ストップストーーップ!いつまで引き摺るんですか!」

「永遠と」

「……それはヤメテ」



ナイ先輩が耳を塞いで言うとアン先輩はそれを見てゲラゲラと笑った。お腹まで抱える始末。

ナイ先輩は結局ここから逃げる形で去って行き、アン先輩の笑いの衝動がいくらかマシになった頃、先生たちの綱引きも熱を帯びていた。

大人げない雄叫びがそこかしこから響いてくる。うおーっ!とか、わあーっ!とか。あんたら大人か、って突っ込みたくなるぐらい気持ちが若返っているようだった。こうやって生徒と同じ土俵に立つことがあまりないから仕方ないのかもしれないけど。


やっぱり最後は黒と青の直接対決。ハイになって魔法が炸裂しなきゃいいんだけどね。先生たちも楽しんでるから羽目を外し過ぎちゃってつい……なんて言われても笑ってすませられない事態になるだろう。

もう聞き慣れたピストルの音が響くと、地面が揺れた……というか空気が揺れた。




「なんか、ヤバくないですか?」

「うん。ぎりぎりコントロールしてるみたいだけど、風が吹き始めてるね」

「言わんこっちゃない……」



アン先輩は呆れたような顔で辺りを見回した。ヘレナ先輩は風に煽られて髪が邪魔なのか片手で押さえている。

……肌が少しビリビリする。魔法のせいだ。

しかもそのビリビリ感は風のせいじゃない。飛び回ってるマナのせいで身体を掠めてくからそう感じるんだ。

……これは、厄介なことになりそうだぞ。



「このままじゃ本当に取り返しのつかないことになりますよ」

「大丈夫でしょ。仮にも大人で先生であたしたちに教える立場の人間よ?これしきのことで抑えが効かなくなるんじゃ先生失格でしょーよ」

「でも……」

『───魔法を使った先生は直ちに失格とみなされますので、くれぐれもご注意ください』



そうアナウンスが流れると、たちまち空気は穏やかになった。落ち着きのなかったマナたちも大人しくなる。そのタイミングを見計らってか終わりのピストルが鳴らされた。やはり判定しないといけないらしく、その間私は固唾を飲んで見守った。

ひそひそと審判が話し合った結果、勝ったのは……青だ!やったね先生!



「ほら、行くわよ!」

「ええ?」

「褒めに行かなきゃ」



私が驚いているのも気にせずアン先輩が腕を引っ張ってきた。躓かないように気を付ける。他の生徒もちらほらと走り寄っているのが見えた。

でも着いた途端アン先輩は担任らしき人のところに行ってしまったので、仕方なく私はタク先生のもとへと向かった。連れて来たなら一緒にいてくれてもいいのにな。



「やりましたねタク先生」

「いやー……久々に燃えたな。綱引きなんて去年ぶり」

「それはそうでしょうね……」

「俺のカッコいい姿、チサトはちゃんと撮ったかな?」

「知りませんよそんなの……印刷されるまでわからないんですから」

「気になるなあ」



タク先生と話をしていると、いきなり背中がゾワゾワっと総毛立った。寒気が背中をかけ上がる。髪の毛まで遡ったところでそうなった正体がわかった。

何年ぶりかの再会。



「ミクっ!」

「うわっ!」

「元気だったかー寂しくなかったかー親父は元気か?」

「元気だし寂しくもなかったしお父さんもたぶん元気!だから離してよ離れて!」

「無理。悪い虫が寄って来てるから」

「はあ?何言ってるの!」

「ミクはいつからこんなに口が悪くなったんだ……お兄ちゃん悲しい……」

「離れてくれないからでしょ!」



私がぎゃあぎゃあと騒いでいると、目の前でぽかーんと呆けているタク先生の顔が見えた。ぼーっとしてないで助けてよ!この際誰でもいいから助けて!

私が兄に抱きつかれて撫でられていると、私が知ってる人……部活の先輩やら生徒会のメンバーやらがわらわらと集まって来た。そして一様に言われる。



「彼氏?」

「ちっがいます!兄です兄!」

「なんでそんな嫌そうな顔して言うんだよミク~」

「シスコンじゃなきゃこんなことにはなってないんだからね!」



そう、私の兄であるトーマはかなりのシスコンなのである。