「あの先生あたし嫌い」

「普通に言っちゃダメでしょルルちゃん」

「先輩は悔しくないんですか?あんな言い方されて。しかも堂々と言わないで含ませて言ったんですよー!」

「だから普通に言っちゃダメでしょ……でも、僕も同感だな」



開会式が終わると、アナウンスが流れて各学校の生徒会は集まるようにと言われた。他にも生徒会があるんだ!と思った。当たり前なんだとは思うんだけど、他校の生徒会はどんな人が入ってるのか気になる。

集まったところは自分の学校のテント。生徒は競技場の観客席に上がる。ぐるりとフィールドの周りに階段があって、座席の役割をしているのだ。ここら辺は、昔の建造物なんだな、と感じる要素だ。



「俺もエネ校とは関わったことがないが……あんな感じなんだな。ナヴィ校のが断然いいね」

「あ、先生もそう思いますか?」

「うんうん。あの学校は校長からして窮屈そう」

「ぶっちゃけ物凄く失礼なこと言ってますよね皆さん」

「いいのいいの。不満を他校の生徒に向けないだけマシだよ」



私がひやひやとしながら呟くと、ソラ先輩がため息を吐きながら言った。確かにそれよりはマシだけど、マナ同士が素直すぎて見てられない。

リト先輩の馬はしきりに地面を蹄でかいてるし、チサト先輩のペンギンは羽をパタパタとして落ち着きがない。ルル先輩のサイにいたっては角をぶんぶんと振り回してるから他のマナが慌てて逃げて行くし、ソラ先輩のライオンは雄叫びを上げまくっている。その声は聞こえないけど、大音量に違いない。

アラン先輩の犬は……おとなしく主の足元で伏せをしている。でもその主は眉間にしわを寄せて腕組みをしているから、本当は走り回りたい衝動に駆られているのかもしれない。


そして、ヤト君のネコはと言うと……あれ、どこにもいない。


競技場を見渡してもどこにもいない。あの小さな身体じゃ無理ないか、と思ったけど本人に聞いたら見当たらないという問題ではなかった。



「あいつ?あいつは……聞かない方がいいぞ」

「いや教えてよ。どこにいるのか心配なんだから」

「……直談判しに行ってる」

「は?」



ヤト君は顔をしかめると、苦虫を噛み潰したような口調で私に居場所を教えた。


ああ、なるほどね……聞かなきゃよかったし、確認しにその現場を遠目ながらも見なきゃよかった。


あのネコは直談判をしに……つまりはあの校長のもとに行き、あの長いポニーテールにぺしぺしとネコパンチしていた。しかも揺れているもんだから生きていると勘違いして、軽くフットワークを効かせながらひとりで攻撃している。

それは目に痛い光景だけど……ナイス、と心の中で褒めた。誰かがやらなきゃ気がすまない。


でも、私は次には凍りついていた。血の気が引いたと言ってもいい。チラッとネコを見た瞬間、大きな赤いトラにその太い腕で殴られているのを見てしまったのだ。ネコは吹き飛ばされてへたりと地面に倒れた。そしてふっ……と消えて気づいたときにはヤト君の足にしがみついていた。

尻尾は項垂れ、毛もさっきまでは逆立ててたのに力なくしおれている。耳も伏せていてあまりにも可哀想だったから手を伸ばして背中を撫でてあげた。僅かな感触だけ感じるけど、小刻みに震えているのがわかる。


私がそのトラにまた視線を向けると、トラは気がすんだのか、主のもとへとひとっ飛びし、何事もなかったかのようにその場で毛繕いを始めた。その主は……黒い服装をした男子。アラン先輩よりも冷たいオーラで切れ長の目が怖い。愚痴っていたルル先輩たちもその人を見る。

その人はこっちをずっとガン見してきた。察するに……エネ校の生徒会長なのかもしれない。向こうの校長先生はそんな私たちの不穏な空気には気づいていないようで、大会のプログラムを確認している。


その怖そうな長身の先輩はこっちに歩いて来た。その後ろから生徒会のメンバーだろうか、男子ばかりがついてくる。というか男子しかいない。

そんな色も助かってヤクザみたいな数人の男子がテントまで来ると立ち止まった。私たちもテントから出て対峙する。他の先生たちも気づいたのか、遠巻きに私たちを見ていた。


まず口を割ったのは向こうの生徒会長らしき人。



「はじめまして、エネ校の生徒会長、ラルク・バーンズです」

「……こちらこそはじめまして。ナヴィ校の生徒会長、アラン・サベルです」

「同い年だから敬語はいらないな」

「ああ……」



低音ボイスでラルクさんは流暢に話した。アラン先輩は出方がわからないから少し押さえぎみで話している。

向こうの他のメンバーは名前を名乗らない。もしかしたら必要ないと判断されているのかな。それなら心外だけど、そっちがその気ならこっちも言わないでおく。


私たちは生徒会長同士の会話を黙って聞いた。