一日一個作戦を初めてから早1か月。私の誕生日がある7月へと突入しつつあった。

初夏を通り過ぎセミの声が本格的に聞こえ始めた頃で、校庭にある木々は青々と大きな葉っぱを揺らしている。

日が昇っている時間も長くなり、夏服へと移行して本格的に夏だなあと感じ始めた私は、そろそろ溜まってきていたプリント類や思い出整理へと取りかかっていた。

今日は日曜日で学校は休み。ユラは今朝とうとう焼けてきてしまった顔を満面の笑みに変え、いってきます!と元気よく学校へと走って行った。彼女の担当する種目が決まって、大張り切りなのだ。

その種目とは、ハードル走。彼女の長い足を存分に活用することができる種目だ。最近は障害の高さを徐々に上げているようで、綺麗な足に痣をいくつか作っていたけど、こんなの痛くも痒くもないよ!とケラケラと笑っていた。

そんな彼女の進歩は目覚ましく、同じ部活に所属しているルル先輩も、あの子は凄い!大会に出したらいいとこまで行くよ!と自慢気に私に話してくれた。


そのとき、私は初めて大会があることを知った。


他校が一ヶ所に集まりその技術を発揮して競い合う。ヤト君に聞いてみると、バスケ部にも大会はあるようで、実はもうすでに大会に出場していたという。

私が驚いていつ?と聞いてみると、それはなんと、アラン先輩が助っ人として出た試合のすぐあとの日曜日にあったそうだ。日曜日になると生徒たちは約束とかをしない限り関わりがあまりなくなるから、そうなるのも無理ないか、と納得した。結果を聞いても教えてくれなかったけど。


他の部活にも大会があるらしく、美術部やサッカー部、チサト先輩のいる写真部にも大会がある。私のいるガラス細工愛好会はもちろん、手芸部にも大会はない。数が少なかったりマニアック過ぎたりしたら開催するのは難しい。

大会の会場となるのは、紫姫がいた時代にできた競技場。昔はそこで色々な大会をやっていたらしく、魔法の競い合いがメインだったみたい。今は私たち学生の大会の場となっている。

その会場ができたきっかけは、戦争なのだと教科書に書かれていた。つまり戦後にできた復興のシンボル。そこで未来の子供たちが高め合っていると知ったら、さぞかし紫姫は喜ぶだろう。


窓を全開にし自分の部屋の机の中をガサゴソと漁る。プリントが引き出しと机の間に挟まって抜けないのだ。

左右に動かしたり破れない程度に引っ張ったり試行錯誤を続けていると、その頑固なプリントがやっと抜けた。それに続いて何枚かのプリントも一緒になって溢れ出てくる。


……あ、中間テストの答案用紙。これが頑固なプリントの正体だったのか。


また期末テストを控えている今日この頃。そんなときにこれを見つけてしまったのは偶然か悪戯か。

これとは……テストの答案用紙のことではない。


その頑固な答案用紙につられて出て来たプリントに紛れていたのは……あの写真だ。ベッドの下から出て来たあの不思議な写真。

手に取って改めて眺める。変わらない笑顔とマナの姿。そう言えば球技大会のときの写真にも、ヤト君のネコと先生のリスがいたな。相変わらずリスは先生の首に巻き付いていたけど。


この2人のことを初めて見たときは衝撃が走ったけど、今は生徒会の存在で冷静に見ることができる。

つまり、彼らも生徒会なのだろうということだ。もしかしたらタク先生が知っている人かもしれないし何か聞いているかも。


奇跡的にプリントの波に埋もれてくしゃくしゃになっていなかった写真を、別の引き出しにしまう。必要なときに見当たらなかったら意味がない。

そして、机の上の壁に別の写真を画鋲で貼る。そこは別の素材が貼ってあって、画鋲を刺してもいいことになっているのだ。


貼った写真は、人数分印刷されて配られた球技大会のときの写真と、生徒会皆で撮った写真。でも集合写真ではなく、チサト先輩に隠し撮りされた写真たちだ。シャッター音が鳴らないなんて詐欺だと思ったけど、先輩のカメラの腕前はそんな文句を吹き飛ばしてしまった。

ピントは合ってるしどれもぶれてない。チサト先輩は実は写真部のエース的存在で、大会でもいい線に乗っているらしい。

何よりお気に入りなのは、いつもは見られない笑っているヤト君が映っている写真。内緒だからね、と本人のいないところでこっそりと渡された。

それは誰かと生徒会室で話している写真なんだけど、その相手は先輩にしては珍しく映っていない。誰なんですか?と聞いても教えてくれなかった。うふふ……と笑われただけで何も言ってくれなかったのだ。

私は首を傾げたけど、レアな一枚を貰えて嬉しかった。本人が見たら破り捨てそう。顔をしかめて見るな!と怒るんだろうな。しかもその顔は真っ赤になってて。

それを見て私が笑って、笑うな!ってまた怒って。


ヤト君は喜怒哀楽がはっきりしてきているから、友達も増えて。女子には話しかけないけど、男子全員と仲良さそうに話をしているのをよく見かけるようになった。

だから屋上にいることも少なくなるかと思いきや、彼は必ず屋上にいて私と話をしてくれる。逆に私の方が友達少ないんじゃないかってふて腐れたこともあった。

そのとき、彼は言ったんだ。



「友達が多くたって、親友がいないんだったら意味ねーよ」



確かにその通りだと私は思った。



「じゃあ、ヤト君の親友って誰?」



冗談半分で聞いてみると、彼は少し考えてから答えた。



「……ソウル」



ああ、やっぱり。同じクラスで同じ部活だもんね。信頼し合っているように見えるし。時々似ているときがあって、一瞬どっちだかわからなかなったときもあった。

近くにいると似てくるっていうけど、本当なんだなって実感したな。そして、私は悪戯心に聞いてみた。



「私は?」

「……言えね」



でも、ヤト君はそう言うとすぐにそっぽを向いてしまった。そのあとはヤト君の決まり文句である、そろそろ帰れの言葉。顔を合わせてくれずに私はその場を普通に去ったんだけど……


改めて思い返すと、私はヤト君の親友にはなれていないのだと気づく。それなら、私はヤト君の何だと言うのだろう。友達?でもほぼ毎日屋上で落ち合ってるし、生徒会でも会うし。


私は、ヤト君の何?


そう思ってしまったら、また胸の奥が悲鳴を上げた。チクチクと痛み出す。でもそれはほんの一瞬のことで、気のせいだったんじゃないかって思うほどの、瞬きするぐらい短い時間。

先輩のときといい今のといい、最近私の心がおかしくなっている。


飴、舐めようかな。


最近、この飴の存在意義がわからなくなってきていた。