……アラン先輩を応援すればいいのかな、それとも全員?こんなにも均等に知ってる人が揃ってるなんて思ってなかった。
ただ突っ立って見ていると、ぐいっと腕を横から引っ張られた。
「そこ危ないからこっち来なよ」
「ソウル君!ソウル君は出てないんだね」
「ヤトが普通じゃないだけだよ。あいつは異常」
「い、異常……王子だもんね」
「それあいつに直接言ってみ?すね蹴られた」
「うわ……痛そ」
「マジで涙出るかと思った」
すねを蹴るヤト君が目に浮かぶようで思わず忍び笑いをしてしまった。ソウル君もクスクスと笑って私の腕を引っ張る。
コートの横の空いたスペースにたどり着いて腕を離された。今何点なのかと思って得点板を見るけど他の人が邪魔でよく見えない。
仕方ないからソウル君に聞いた。
「今何点?」
「俺はリト先輩のチームなんだけど……3対3で同点」
「3?ってことはスリー誰か決めたの?」
「あの助っ人の先輩が入れた後ヤトが決めた。負けず嫌いだよなーあいつ」
「確かに負けず嫌いだね……」
「で、なんでここにいんの?」
「その助っ人の先輩について来たんだ」
「へー……あの人誰?」
「生徒会長」
「……マジで?!初めて見た!」
心底驚いたような表情でソウル君が言うもんだから本当に知らなかったのだろう。まあ4年生と関わることなんて部活ぐらいだもんね。
しきりに意外だ意外だとソウル君が隣で連呼してるから聞いてみる。
「なんで意外なの?」
「ソラ先輩が言ってたのと印象違うから」
「い、印象?!」
変なこと言ってませんよねソラ先輩?ていうか変なこと言われてるかもしれませんよアラン先輩!
どんな印象か聞こうとしたら、アラン先輩がこっちに走って来て私に無言で眼鏡を押し付けた。慌てて落とさないようにキャッチする。
おととと……危ない危ない。
「……確かに眼鏡外したら別人だなあ」
「それも聞いてたんだ……」
どこまで話を聞いているのか凄く気になる。落としたりしないように眼鏡をスカートのポケットに入れてソウル君に再度聞いてみる。
「どんな印象なの?」
聞きたいけど聞きたくない。でもアラン先輩のことを知りたい。でも勝手に聞いていいのか迷う。
もうっ!はっきりしろ自分!
「まずはヤトと一緒で負けず嫌いだろ?それと才色兼備でなんでも涼しい顔でやるし、責任感が強くて手を抜かない。あとは……これは言わない方がいいか……」
「心の声聞こえてるんだけど」
「……もう言っちゃえ!悪いのはソラ先輩だ!」
「だから、心の声聞こえてるから」
「あのさ!これは結構有名な話なんだけど」
悩んでたのに有名な話だったんかい!それなら悩む必要なくないか?
「アラン先輩……初恋の人が忘れられなくてずっと告られても蹴ってたらしいよ」
「は、初恋?!」
あのアラン先輩がそんなロマンチックな人だったとは……この言い方は失礼か。
でも意外だな……忘れられない人って誰だろ。校内にいるのかな?それとも学校に入る前だったらここにはいないよね。
それじゃあ断るのも頷ける。その人と約束してたらいくらモテたって皆眼中にないわけだし。
そう思ったら、チクッと胸に針が刺さるような痛みを覚えた。ほんの僅かだけど、でもしっかりと感じられた鋭い痛み。
……なんでこんな風になるんだろ。
自分自身に首を傾げていると、ソウル君が横ででもさ……と言った。
「そんな感じで、冷徹な人かと思ってたら……あんなに楽しそうに笑ってるんだ」
ソウル君の目線の先を見ると、制服のままボールを取り合うアラン先輩が目に入った。勝負は拮抗しているらしく、まだ3対3のまま。そろそろ時間が迫りつつある。
眼鏡を外したアラン先輩は、一瞬昔のおにいちゃんと重なった。顔立ちは大人びたけど、ふとした横顔は昔のままだ。そのまま目線は唇に吸い寄せられて……
あわわわわわわわっ。何考えてるんだろ。
ひとりで慌てて片手で口を覆うからソウル君にどうしたの?顔赤いよ?と聞かれたけど、なんでもない、とかぶりを振る。
この手の内容で赤面してたらスバル君と変わんないじゃん!と訳のわからない突っ込みを自分にして平常心を保とうとする。
試合に集中しないと。
手を離して改めて試合の観戦をする。アラン先輩を直視できなくてヤト君をじーっと見てると、なぜか視線が合ってしまった。すぐそらされてしまったけど、確かにこっちを見た。
なんで?ちゃんとボール見なよ。
残り時間があと1分に迫ったころ、ソラ先輩がジャンプシュートを決めた。5対3とリードする。
ソラ先輩は嬉しそうに、っしゃあ!と叫ぶとガッツポーズをした。男子ってこういう勝負は何気に本気出してるんだよね。いつもはへらへらしてる人でも。
……あ、ソラ先輩がいつもへらへらしてる人じゃないよ?あくまでも一般論ね。あれ、これじゃソラ先輩は見本になっちゃう?
ま、まあ、ソラ先輩も本気を出せばカッコいいってことで。
それを聞いて、ああ?と思わず言ってしまったアラン先輩は目の色をまた変えて、パスされたボールをドリブルしながら物凄い速さでゴールまで突っ走る。誰のブロックも届かずレイアップで点を決めた。
これであっという間に5対5。このままだと奢るということ自体がパーになってしまう。でも、それじゃ気に食わないから最後はじゃんけんとか?
それじゃあんまり試合の意味ないか。
「もし勝負がつかなかったらどうするの?」
興味半分でソウル君に聞いてみると一番聞きたくない答えが返ってきた。
「うーん……じゃんけんとか?」
「……」
……やっぱりそうなるのか。
どうかじゃんけんにならないでくださいと祈ってみる。だって、男子のじゃんけんってなんだか見苦しいから。
本気だしてんのに指先だけで勝負するなんて小さいと思わない?でっかい身体と声をフル活動させてんのに全神経は指先に行ってるんだよ?
それをアラン先輩がやってたら……印象の話っていうわけじゃないけど、冷徹っていうイメージはさらに壊れるよね。
ぼんやりと考えていると、残り30秒となっていた。もしかして、このままじゃんけんに突入しちゃうの?それなら誰か点数決めてほしい。どっちのチームが勝ってもいいから勝敗は試合で決めてほしい。
じゃんけんだけは頂けない。
「「「10、9、8、7……」」」
カウントダウン始まっちゃったよー!誰か点数決めて!誰でもいいから!一回入れればそれですむから!
「「「4、3、2……おおっ?!」」」
諦めて目を瞑っていたら、いきなりどよめきが走った。
なになに?どうしたの?
パッと目を開けると、そこにはゴールに向かって飛んでいるボール。クルクルと回りながら弧を描いている。すべてがスローモーションのように感じられた。
瞬きをしてから視線を向ければ、そこにはシュートを放ったヤト君。そこは3ポイントのラインだった。時間が足りなかったからそこから打つしかなかったのだろう。
ここにいる全員の視線を受けてボールはゴールへと飛び────
奢ることになったのは、このチームだった。



