「そんなエリートが来るんだったら、あっと驚かせる作品作んないとね!」

「おっきいやつですか?それともめっちゃ装飾が細かいのとか?」

「細かいの作ればめっちゃ細かい男代表」

「言わなきゃよかった……」



またまたしょぼーんとしているナイ先輩は置いといて、皆は掃除道具を片付けて作業の準備をする。

釜の温度が上がったから汗がだんだんと滲んできた。アラン先輩はバッグからタオルを引っ張り出して首に巻く。ナイ先輩はハチマキみたいにおでこをタオルで覆った。

女子の先輩はそんな野蛮な……といった感じで膝の上にタオルを置いて必要なときだけ使うみたい。スバル君は何を作ろうかと椅子に座って吟味している。

私は……何しようか。だいたいは作業を眺めてるだけで時間が過ぎて行くんだけど、私も学園祭に向けて何か作りたいな……なんちゃって。

たぶん作れない。普段からやってないから。



「ミク、何考えてる?」

「え?……ええっと」



ミク、と呼ばれてドキッとして視線を向けると、アラン先輩がこっちをじーっと見ていた。歩いて近寄ったけど言おうか言わないでおくか迷う。



「おまえ、考え事してる時は左手の指擦り合わせるよな」

「ええっと……」



言われて初めて気がついた。確かに親指を動かして人差し指と中指に擦り合わせてる。右利きだから左手でついついやってしまっているのだろう。


左手から視線を上げるとアラン先輩の瞳とばっちり合ってしまった。気まずくなって視線をまた戻す。

どうもアラン先輩の正体を知ってからなんだか気まずく感じる。理由はわからないけど……



「で、何考えてたんだ」

「……学園祭の作品、作りたいな、と思って……ました」

「いいんじゃないか?」

「えっ。い、いいんですか?」

「ただし、俺を助手とすること。絶対にひとりでやらないと約束するなら作ってもいい」

「先輩がいないときは?「やるな絶対に」

「あ……ありがとうございます」



やるな絶対に、と間髪入れずに強く言われて少し詰まったけど、お許しがもらえたからお礼を言う。

まずは何を作るか考えてからな、と言い置いて先輩は釜に向かってしまった。今日はやらせてもらえないらしい。でも構想を練ってからじゃないと作れるものも作れないよね。


さて、宿題ができてしまった。飴の味を考えるのよりも難しそうだ。


先輩たちが作業をしてるのを眺めながら思考はここに在らず。意識は遠くの方に飛んでいた。

ガラスにすると綺麗になるもの……でも簡単すぎるとインパクトないし……難しすぎるのもなんかなあ。

椅子に座って机に頬杖をついてぼんやりとする。釜の中の炭がバチバチと音を立てるのが耳に入る。


……う~ん。決まらないとやらせてもらえなさそうだし、でも早いとこ決めたいんだけどいい題材がなあ……う~ん。

う~ん……う~ん?ん?えーでも難しそう。そこまでやったらめっちゃ細かい女代表になっちゃいそう。でも、作りたいな。

鱗はほどほどにして、ひげは自然に、角は鋭く。


そして、綺麗な水色。


あなたを、作ってみたい。一度しか見てないし正直あのときの会話は朧(おぼろ)気だけど、作ってみたい。


あなたを、忘れたくない。



「先輩!」

「ん?」

「私の作品の話、聞いてもらえませんか」



マナの世界が滅んでしまうってことは言わないでおくことにする。夢の中だったし多分信じてもらえるだろうけど、変な事を吹き込みたくない。

でも、あの綺麗な彼女をこの目で見て触ってみたいんです。先輩、先輩の手を貸してください。