「ミク!ミク起きろ!寝るなら寮で寝なさい」

「ほえ……?」



怒鳴り声と自分の情けない返事で目を覚ました。ガバッと頭を上げれば呆れ顔のヤト君とタク先生がいた。

どうやら保健室のベッドでそのまま寝ていたらしい。



「ほら、もう食堂閉まるからおにぎりもらってきたよ」



ポンと手渡されたのは包装されたおにごり3個。三角で海苔の巻かれた典型的なフォルム。

……ん?食堂が閉まってる?



「今何時ですかっ!」

「ちょうど夜の7時半」

「ウソでしょ……」



なんでそんなに寝てしまったんだ。確か日没前だったじゃん!何時間寝てるの私は!

自己嫌悪に陥っていると、ヤト君にでこぴんをされた。おにぎりがあって両手で押さえられないのがツラい。



「痛い!」

「さっさと起きろアホ。帰るぞ」

「うう……でこぴんも酷いしアホって言うのも酷い」

「風呂に間に合わなくなる。球技大会の後だっていうのに風呂に入らないのはどうかしてる」

「あそっか……そうだね。急いで戻ろう」



我に帰って保健室を後にする。先生にお礼を言って深々と頭を下げていたらノロマ!とヤト君に喝を入れられた。

だからアホもノロマも酷いって!


彼の隣を歩きながらふと思ったことを口にする。



「ねえ、包帯は?」

「取った」

「だ、大丈夫なの取って」

「平気。治ったから」

「ウソだあ!あり得ないよこんな短時間で」

「……じゃあその目で確かめろ」



袖を捲ってヤト君は見せつけてきた。仕方なく右腕を確認すると……内出血のあとが綺麗さっぱりなくなっている!

どうして?と疑問ばかりが浮かぶ。どんだけ自己再生能力が高いんだ?



「そんなに効く薬があったなんて……タク先生さすが」

「あの先生は薬剤師じゃないぞ。あくまでも科学者だ」

「だってそれしか思い浮かばないし……じゃあどうやって治したの?」

「知るか。起きたら治ってた。食べないなら俺が食うぞ」

「だ、ダメダメ!私の夜ご飯なんだから!ヤト君は食べたんでしょ?」

「まだ食ってない。腹へって死にそう」

「え~……だってなんかウソ臭いし。いいにおいしてたし保健室」

「……バレたか」

「ほら!やっぱりウソなんじゃん!」



私は怒っておにぎりにパクついた。中身は……梅だな。梅干しの酸味が不意討ちで襲ってきて鼻にくる。

それでさっきの夢を思い出した。なんなんだろう……剣と鈴、そして翼って。

それだけじゃヒントにもなってない。末裔ってことは昔の人のことだよね。歴史の教科書にはそれに当てはまるような人は見つからないし……


考えに耽っていると、ヤト君におにぎりをひとつ盗まれた。



「……あ」

「隙あり。何ぼーっとしてんだよ」

「うーん……なんでもない。そのおにぎりの中身は?」

「ツナマヨ」

「ええ!私それ好きなのに」

「残念。ぼーっとしてんのが悪い」

「ああ、涙が……」

「バレバレ。梅干しのせいだろ」

「……」



私は本当に泣きそうになったけど、今の会話を思い返して笑いが込み上げてきてしまった。

そんな私を怪訝そうに眺めるヤト君。



「なんだよ」

「なんか、今の会話面白いなって」

「そうか?」

「うん。あんまりこんなに話すような人がいなかったから……冗談を言い合える人ができて嬉しいなって」

「家族は?」

「家族はね……秘密にしてくれるなら話してもいいかな」

「……約束は破らない」

「うん、ありがとう」



ヤト君だから話すんだよ?皆とは少し違う私の家族。

別に孤児であるヤト君を見下そうとかは考えてなくて、普通の家族を知らないヤト君なら、いいかなって思ったんだ。思えたんだ……