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ヤトside
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「くっ……」
あーよく寝た。ベッドで寝転がるだけにするつもりが寝てしまっていたようだ。痛めた右腕を庇って左手で支えて立とうとすると、左手には何か柔らかいものを掴んでいる感触があった。力を緩めてそれを見る。
……手?
バッと主を見れば黒い脳天が見えた。続いて寝息も聞こえる。
誰だ?と思っていたが、意識がだんだんとはっきりしてきた。
……なんでこいつがここにいんだよ。しかもベッドに突っ伏して寝てるし。
それに、俺の手の中にこいつの手がある理由がまったくわからない。相棒がこいつの隣でまどろんでいるが、理由を聞いたところで答えられない。
首を捻っていると、誰かが入って来る音がした。
「ヤト起きてるかー?晩飯持って来たぞ」
誰かと思えばタク先生だった。俺を見るなり口を開く。
「起きてるなら返事ぐらいしろ……あれ、ミクがなんでいるんだ?」
「保健室の先生から何か聞いてないか?いつの間にかいたんだ」
「まったく……敬語はどうした敬語は」
「いいだろ他に誰もいないんだし」
「ミクがいるだろー」
「寝てるから関係ねぇよ。飯サンキューな」
「……まったく」
先生は呆れてものも言えないといった感じで食事の乗ったトレーを胡座をかいている俺の膝の上に置いた。
食べやすいように食事は箸ではなくスプーンで食べられるようなメニューだった。
「溢すなよ……あ、あーんしてやろうか」
「冗談だろ……」
「そんなに睨むなよやらないから。でも溢すなよ」
「2回も言わなくていい」
俺はため息を吐きながらスプーンを手に持ちスープを啜る。コンソメが効いていておいしい。
俺が夢中になっていると、いきなりその手を掴まれた。あ?と不機嫌になって見上げると先生が驚いた表情で俺を見下ろしていた。
なんなんだ?
「おまえ、腕どうした」
「腕?」
「なんで右手でスプーン持って左手でお椀持てるんだよ。負傷しているはずだろ?」
「あ……」
言われてみればそうだ。無意識に右手で食事していたが、打撲していたら痛みでそんなことをするのは難しいはず。
先生は包帯ほどくぞ、と言ってからグルグル巻きになっていた包帯を解いていった。そして、変色していた箇所を確認するも……そこには健全な肌の色があるだけだった。あんな気色悪い色をしていたはずなのに。
これには俺も驚いて先生と顔を見合わせる。そして同時に寝ている呑気なやつを見た。
まだ穏やかな寝息を立てているそいつは……紛れもなく……
「開花しようとしているのか?」
「さあね……でもそれしかあり得ない」
「情報は合っていたってことだな。すぐに伝えるか?」
「だよね。早急に報告するよ。でもどうする?その打撲。仮病を装う?」
「いや、めちゃくちゃ悔しいから意地で治したってことにする」
「その治癒力は化け物並みだね……ってことにならない?いくらなんでも無理があるでしょ」
「その治癒力をこいつは……」
こいつは、秘めているのだ。



