このままぼーっと座ってても埒があかないから椅子から立ち上がる。このまま部活に行くのもいいかと思ったけど、一回保健室に寄るのもありかなと思って保健室に向かった。
保健室は開いていてノックした後誰の返事もなかったから勝手にお邪魔してしまった。やっぱり保健室の先生もいなくて、外の部活の声が風に乗って流れてくる。
ヤト君もいないのかな……と保健室の中をぐるっと探すと、彼はベッドの上で寝ていた。
別に病人でもないのに呑気に寝ているから呆れたけど、包帯の存在で思い直す。彼は病人じゃないけど怪我人なんだ。
ゼッケンを着ていないから誰かが返してくれたのだろう。もしかしたら保健室の先生はゼッケンを返しに行っているのかもしれない。
とにかく、今ここには誰もいないのだと自覚すると、喧騒しか聞こえないこの部屋がぼんやりとして感じる。私も疲れているのかも。
ふとヤト君の手元を見れば、私のタオルがまだ握り締められたままだった。寝てるから取ってもわからないよね?と思ってタオルを返してもらおうと引っ張る。
でも、握ったままの拳は思ったよりも頑なで離してくれそうにない。仕方ないから彼の手をこじ開けてタオルを引っ張り出した。手間がかかるなあ……とか思ってため息を吐いていたら、引っ込めようとした手首をあろうことか掴まれてしまった。
起きてんの?と顔を覗くもそうではないらしい。完全に寝惚けている。
幸い近くに椅子があったからそれを手繰り寄せてなんとか座る。片手は拘束されたままだ。
どうしたものかと考えあぐねいていると、ヤト君の寝ている身体の上に赤いネコが現れた。そこで顔を手でグシグシと洗っている。
君のご主人どうにかしてよ、と非難の眼差しを向けるも完全に無視。この状況をどうこうしようとは微塵にも思っていないらしい。
私は部活に行くのを諦めることにした。この手を振りほどけるほどの力は持ってないし、起こしてしまっては申し訳ない。
だんだんと後ろで沈んでいく夕陽からできた自分の影を、私はじーっと眺めていた。



