「おつかれー!」
「お疲れ様!」
球技大会一日目が終わって、教室に戻ってから声を掛け合う。皆の汗と熱気で教室内が蒸し蒸しとしているけど、それはそれだけ皆が頑張ったんだっていう証だ。
「ヤトは災難だったな。あれは絶対わざとだぜわざと」
ソウル君が飲み物を飲みながら周りの男子に愚痴っている。
私はそれを耳を大きくして聞く。
「あのでかぶつはな、部活んときもヤトに対して嫉妬しててよ、見ててこっちがイライラしてくるほど不機嫌たらたらなんだ」
「じゃあ、あれはファールぎりぎりの嫌がらせ?」
「そ。ふざけんじゃねーよな。俺たちのエースをものの数分で排除したんだから」
スバル君が聞くとソウル君は空の自分の紙コップをグシャッと握り潰した。怒っていたのはヤト君だけじゃないとわかりホッとする。
赤いネコがあんなに怒りを露にしているところなんて初めて見たから、平気な顔してても実はヤト君は怒ってるんだろうなってことは察してた。
その怒りが本人だけでなく、周りにも感じ取られたのなら、それだけ皆もヤト君のことをわかってきたっていうこと。
ヤト君は、ああ見えて本当は皆から信頼されてるんだなってことが実感できてよかった。当の本人はまだ戻って来ていないらしい。
「でも本当に良かったよ!すべて勝ったんだから!」
「ソウル君のおかげだよね」
「なに?俺に惚れた?」
「バッカじゃないの?!」
ソウル君はどこで聞いていたのか、私とユラの間に割り込んで来た。そんな彼の言葉にユラはバシッと彼の背中を叩く。
「イッテ!何すんだよ」
「変なこと言うからよ」
「あんなの冗談なのに……本気にするなよ」
「あーめんどくさい。明日も頑張んなさいよ?ヤト君の分もね」
「審判は無理だけどな」
「あ、そっか……審判もなんだっけ」
彼の役割を思い出して心配になる。彼の分のシフトを上手く調節できればいいんだけど……ソラ先輩たち大丈夫かな。
明日も大忙しの一日になると思うと憂鬱だけど。
その後も少し喋っていると、ガラッと教室のドアが開いてタク先生が入ってきた。慌てて自分の席に戻るソウル君。
「ヤトのことは心配するな。明日も出られないだろうが、それで負けることには繋がらない。むしろ勝ちまくって後悔させないような大会にするんだ!」
「おー!」
先生の言葉にソウル君が反応すると笑いが起きた。先生も笑っている。
「んじゃこれで今日は解散!まだ余力のあるやつは部活に行けばいいし、ないやつは寮に戻って寝てもいい」
先生がそう言い残して立ち去ると、ユラがうーんと伸びをした。周りの皆も思い思いのところに向かっている。
「あたしは部活行こーっと」
「陸上部なのによくやるね」
「なのにじゃなくて、だからだよ!身体を動かさないとなまっちゃう」
「そうだね……」
ユラの言葉で思い浮かんだのはヤト君。バスケも当分できないだろうから部活に出られないはず。そうなるとバスケの腕もなまるのかな……
「ミクはどうすんの?」
「私は……どうしよ。部活行こうかな」
「そうしなよ。ずーっと浮かない表情しててこっちが憂鬱になっちゃう。気持ちを切り換えるのも大事だよ!」
「浮かない表情……」
自覚はなかったけど、余程ヤト君を心配しているのが顔に出ていたのかユラに指摘されてしまった。確かに元気ないかも。
「じゃ、また明日ね!」
「うん。部活頑張ってね」
私が手を軽く振るとユラも手をひらひらとさせてから出て行った。
スバル君は寮に戻るみたいで、疲れきった足取りで教室を出て行った。クラスメートが皆いなくなり、私だけが教室にぽつんと座っている。



