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ミクside
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ヤト君を保健室に送ってから猛ダッシュで廊下を走り抜ける。あと少しでバレーが始まってしまうではないか!
ヤト君はどうやら打撲らしく、支えるための板を右腕に包帯でグルグル巻きにされて、それを首からかけた包帯で吊るされた。
本人はこんなの大袈裟だと不機嫌そうだったけど、保健室の男の先生がこうしないとダメだとたしなめる。
それでもぶつくさと文句を言っていると、保健室にタク先生が飛び込んで来た。慌てて来たのだろう、前髪がすべてオールバックになっていた。
私が前髪、と指差すとぺたぺたと無造作に直してから、その手で彼の両腕を掴んだ。
平気か?大丈夫なのか?と揺さぶるから、ヤト君は顔を歪めて先生のせいで悪化しそうです、と冗談めかして言った。
タク先生がいるなら安心かな、と思って腕時計を確認すると、バレーの試合の開始時刻が迫っていることに気がついた。挨拶をしてから保健室を飛び出し今に至る。
バレーは外だからもう皆出てるのかな。
そうなると、遅れるわけにはいかないとこの後試合があるにも関わらず必死に走る。体力を温存しながら走るなんて高度な技術を私は持ち合わせていない。
曲がり角を曲がろうとすると、前から曲がって来た誰かにぶつかりそうになった。
「す、すみません!急いでて」
「……おまえか」
下げた頭上から聞こえてきたのは聞き慣れた声。
見上げればアラン先輩が立っていた。先輩にぶつかりそうになっていたとは……危ない危ない。気を付けないと。
「これから試合か?」
「はい。バレーなんですけど……」
「頑張れよ」
「あ、ありがとうございます!」
アラン先輩は微笑んでから私の肩に手を置いて去って行った。先輩を見送ってから前を向くと、今まで先輩がいて気づかなかったけどそこにはアン先輩がいた。心なしか目の周りが赤くなっている。
「あの……」
「何よ……アランのやつ。言ってることとやってることが違うじゃないの……」
「え?」
「ほら、行きなさいよ。時間がないんでしょ?」
「あ、えっと……失礼します!」
もしかして、もしかしなくても……アン先輩は泣きそうになっていたのではないかと思う。その原因はよくわからないけど、アラン先輩は何かそのことで知っているに違いない。でも私にはそれを聞く権利はないし、詮索してはいけない気がする。
アン先輩の横を走り抜けて、下駄箱でグラウンドシューズに履き替え外に飛び出す。
コートにたどり着いたときはもうすでに試合が始まっていて、ボールが怖いと言っていた子が出場していた。
「ミク!良かった間に合ったね」
「うん」
いつの間にか、ちゃん付けではなくなったユラに声をかけられた。代理で出てくれていた子に謝ってからコートに入る。
今は五分五分の戦いを繰り広げているようで、ドングリの背比べみたいな状態だ。取っては取られての繰り返し。
「ミクが来たから少しは進展するといいんだけど」
「うん、遅れた分挽回するよ!」
走って疲れてはいるけど、そんなのは言ってられない。準備運動になったと思えばいいんだ。
用意されているお茶を紙コップに注いでグビッと飲み干す。そして位置についた。順番で私のサーブの番だから緊張するけど、ここで入れなきゃヤト君に見せられる顔がない。
私は思いっきり下からボールを手首で打った。



