「……バスケ部、ですか」

「そうそう。君ならできそうだし」

「運動できそうだし」

「……」

「うーん……そんな怖い顔されても。別に変なことを言ってるんじゃないよ。ただ、僕たちと同じバスケ部に入らない?ってだけ。あ、そうだ……この後何か用事ある?」

「いえ……特には」



……嫌な予感しかしない。



「「仮入部、来ない?」」



と言うわけで、俺は2人の先輩に流されるままに仮入部に参加し、期間の最後まで参加させられた。

最後まで参加したということはつまりは入るということと同じだと捉えられてしまい、俺はなんとなくバスケ部に入った。

ただなんとなくだったんだが……思いの外のめり込んでいる自分に驚く。シュートの正確さを追求したり、パスの取りやすさを考えたり。

チームワークについてはリト先輩から諭された。リト先輩も前は団体をめんどうだと思っていたがチームワークの大切さに驚かされたという。

俺は基本ひとりだったからそんなことを言われても……と思っていたが、バスケはチーム戦。ただひとりが活躍したところでそれは勝利に繋がるわけではない。5人でボールを回してこそ、勝利への近道になる。

めんどうだと思っていたものが、今ではかけがえのないものへと変わりつつある。そして、人間関係にも変化が生まれた。



「ヤト!頑張ろーぜ!」

「おまえもな」

「つっても、バスケにバスケ部が2人も出るのは反則だけどよ」



試合が次に迫っていたため、俺たちはコートの隅で集まっていた。他の試合を眺めながらその順番を待つ。


今話しかけてきたのは、同じクラスのバスケ部だ。こいつもなかなかの実力を持っている。瞬発力、洞察力ともに申し分ないが、シュートがなかなか決まらないのが弱点でもある。

今回は俺がバスケに出るからサッカーに回ってもらった。応援に駆けつけてくれたのは正直嬉しい。


こいつの名前はソウル・ハウンド。背は俺よりも高め。俺の背は……平均よりもほんの少し下だ。バスケは背が高い方が有利だから最初は他の先輩たちに見下されていたんだが、俺が思っていたよりも上手かったから見直してくれた。

見直したのは先輩だけでなく、同学年も同じようだった。そのときに話しかけて来たのがこいつでスゲーと何度と言っては褒めてくれた。

……それはこいつの苦手なシュートが入っただけなんだけどさ。さらにスリーポイントシュートだったってだけ。

俺は別に褒められたいわけじゃないけど、認められるのは悪くないな。



「終わったぜ。ほら頑張れよ」

「おう。スリー決めてやる」

「期待してっからな!」



ソウルは俺に拳を突き出した。俺も拳を握ってコツンと合わせる。これはバスケ部の中では挨拶代わりになっていて、試合の前やナイスプレーのときに感情を共有するつもりでやるんだ。


……まあ、負けらんねぇな。ちょうどあいつが得点係だし。


ちらっと横目で確認すればあいつの間抜け面が目に飛び込んでくる。同じチームのメンバーが一目でわかるようにするためのゼッケンを着ながら観察した。

ドッジボールの後すぐに駆け付けたのか顔が紅潮している。隣にはソラ先輩とリト先輩が並んで何かを話していた。

話をしながら俺の方を見てくるから、きっと何点決めるだのと予測しているに違いない。あいつに話かけて同意を求めているようだが、よくわからないといった感じに曖昧な笑みを向けている。


ゼッケンを着終わり相手のチームと挨拶をしてから試合スタート。ジャンプボールで俺にボールが飛んできた。

ドリブルをしてゴール下までたどり着きレイアップを決めようとするも……あえなく阻止されてボールはラインの外から出た。

俺の軌道を邪魔してきたのはでかい男。確かバスケ部にいるやつだ。あんまり関わってないから親しくもない。

だが、明らかに闘争心剥き出しでアタックしてきた。俺がよほど気に入らないらしい。


味方からボールをパスされシュート……したが僅かにずれてゴールから溢れ落ちてしまった。そのボールをでかいやつがリバウンドで取り自分のゴールへと一直線にドリブルで走り、俺がやろうとしていたレイアップで点を決められてしまった。

沸き上がる歓声と、興奮しているでかいやつ。俺を嘲笑うように見てきやがる。いけすかない野郎だな。


あいつは微妙な表情で敵の得点を捲った。落胆を隠せないようだが、対等に振る舞わなければならない立場なためそんな表情になっているのだろう。

隣の先輩たちは明らかに憤慨している。こうなることを予測していたから先輩たちは俺がいる試合では審判をやらないことにした。えこひいきをして判断を甘くしてしまいそうだからと自ら自粛したのだ。

それをして正解だったと思う。


俺は舌打ちを軽くしてから気を取り直して次のチャンスを窺う。だが相手のガードが思ったよりも手強くてなかなかゴールに近づけない。

仕方ないから味方にパスを回して隙を見つける。パスを回していると、だんだんとゴールへの筋道ができてきた。敵の死角に回りパスを回すように合図する。

それに気づいたメンバーが俺にパスを回してくれた。バウンドパスからのジャンプシュート。

それは弧を描き見事ゴールにすっぽりと収まった。声援が大きくなる。よし、この調子だ。

でかいやつはやはり気に食わないのか苦虫を噛み潰したような顔で俺を睨み付けてきた。これだからプライドの高いやつはめんどうなんだ。不正なファールとかはよしてくれよ?


あいつは今度は得点を嬉しそうに捲った。おまえ表情に思いっきり出てるぞ……

だが、喜んでくれているとわかって悪い気にはならない。むしろその逆だ。俄然気合いが入る。

開始3分ぐらいだけど、まだまだ勝負は決まらないからここからが腕の見せどころだ。6分間、どれだけ点数を決められるかにかかっているしな。



「おい、スリー行けよスリー!」



ソウルが横からちゃちゃを入れてきた。それはわかってはいるが……なかなかな。外せば相手のチャンスボールになってしまう確率が高い。

だが、決めればそれが決定点になる可能性にもなる。


キュッキュッと靴底で音を鳴らしながらゴールへと進むが、でかいやつがガードして来やがった。いちいち俺に構うなよ。

軽くかわそうとその横を通り抜けようとしたとき、あいつの手がサッと伸びてきた。ドリブルしているボールに向かっていたそのでかい手が俺の腕を直撃したとき……



俺の腕に激痛が走った。