なぜこの飴が魔法の飴になるのかというと、精神を安定させれば魔法も安定するからなんだって。

何もかもが不安定な人にはこの飴を与えて処置を施す。でも大抵の人には必要ないんだけど、マナを見ることができる人は不安定な人が多いからこんなものが開発されたらしい。

でも開発したのはタク先生。

だからこのカラフルな飴たちは市場に出回っていない幻の薬となっていて、その存在はあることは知られているけどどこにあるのかも誰が開発したのかも公表されていない。

それはいわゆる企業秘密ってわけで。

先生からは誰にもこの飴のことは言うなよ、と釘をさされた。もちろん先生から貰っているってことも。




「……でも、授業中何をすればいいのかの解決にはなってません」



私は飴を舌でもてあそびながら不満を溢した。そろそろ溶けきりそうな飴。でもレモンの味はまだまだ強い。



「見学」

「……だけ?」

「だけ」

「……」

「仕方ないだろ。俺にはわからないってさっき言ったし」

「それならやることないんですか何か。ただの見学だけじゃ一時間もったいないです」

「じゃあ味でも考えていればいい。リクエストに答えてやる」

「だからそれだけじゃ一時間もたない「俺だって何かしてやりたいのは山々なんだが……手の施しようがない。だから我慢するしかないんだ」



言葉を遮られて不服に思って先生の顔をじっと見たら、困ったような顔をされてしまった。

その表情で私は悟る。


……先生だって何かしてあげたいけど、成す術がないんだ。こればっかりは。


私の場合はまったく原因不明で意味不明の難解な……とにかく訳のわからない問題児。

精神的な問題も肉体的な問題も皆無。健康的で一般的な子供なのに魔法が使えない。それはたぶん前例がないはずだ。だから先生も色々と考えての対処。

それを私が口出ししていいことじゃなかった。



「……すみません。うるさかったですね」

「いや、いいんだ。そうやって言われるのはごもっともだしな」

「……味、考えてときます」

「ああ、助かる。ハードル高くないやつにしてくれよ」

「はい」



先生は私に笑いかけて背中を向けた。そして皆の方に歩いて行って手をパンパンと叩く。



「おーい、準備運動は終わったか?そろそろ始めるぞ。あと三十分しかないしな」

「今日は何やるんですか先生ー?」

「ルルはまずこのサイを退けてくれないか?」

「えー、だってこの子のんびりやさんでなかなか動いてくれないんですもーん」

「仮にも風だろーが」

「風は気分やさんでもありますからー」

「上手いこと言うなルルは」



賑やかな輪から少し離れたところにぽつんと立っている私。心に生まれた疎外感。


……大丈夫。いつものことだから。


もちろん虚言癖のあった私になんて友達なんていなくて。そもそも同年代の子供が近くにいなかった。いたのは兄と……

取り敢えず、人との関わりはあまりなかった。あったのは妖精……マナとの関わり。マナだけが私に気づいてくれた。寄り添ってくれた。味方だって示してくれた。


私はほんの少しだけ口内に残っていた飴をガリッと噛み潰す。レモンの味は強くなったけど、だんだんと薄れていく。

私の存在も、いずれは忘れられてしまうのかもしれない。そして、その味はレモンかどうかもわからなくなる。


無意識に肩に力が入っていたのか、突然片方の肩に手をぽんと置かれてビクッとする。

反射的にそちらを見れば、やっぱり欠伸をしているこの男。



「おまえは行かねえの?」

「……」

「自分から行かねえと何も始まらないし変わらない。俺は行くけどな」



真剣な眼差しを私に向けてから彼はそう言い、何事もなかったようにスタスタと歩いて行ってしまった。

何も言えないまま直立していると、足元に擦り寄って来た赤いネコ。見下ろすと私の目線を受けてから、彼の後ろを尻尾をぴんと立てながら走って行った。


……ここなら、いつものことじゃなくなるのかもしれない。


私はある決意を胸に、一歩足を踏み出した。

行くよ、行ってやろうじゃん。そういう意味なんでしょ?ヤト君が言ったのは。


私も、生徒会に行く(入る)よ────