「他の生徒たちはそれぞれの特訓を受けているはずだ」

「特訓?」

「そうだな……例えば、水の場合はまずは噴水のように水を上に噴き上げさせること。重力に逆らって使えるようになれば浮かせることもできるようになる。それをクリアすれば、今度は魚を水の中に閉じ込める。圧力をかけすぎれば中の魚は死んでしまうし、逆に緩ければ水は形を成せなくなる。

そこら辺の加減は難しいが、そうやって徐々に魔法をコントロールできるようになるんだ」

「マナはいつ頃現れるんですか?」

「実は、もうすでに現れてはいる。しかしまだ形を保つことができずに主の周囲に粒子が浮遊している。その粒子が集まってひとつの個体となり俺たちの目に見えるようになる。

浮遊している粒子をいったんひとつにかき集めてから魔法を使うから、子供はじゅうぶんに力を発揮することはできない。その粒子がすでにひとつとなっていると思うと、大人の魔法が強いというのは明白だ」

「はい……」




だから子供は学校に通って訓練してマナを出現させなくちゃいけないんだな。しかもその授業は危険だから、ある程度精神的にも肉体的にも大きくなったこの歳からそれを開始させる。

精神的に幼いと魔法の暴走に繋がるし、肉体的にまだ未熟だとすぐに体力が無くなってダウンしてしまう。

それほど、魔法というは奥が深いのだ。



「さて、ここだ」



先生はぴたりとあるドアの前で立ち止まった。取り出した鍵を鍵穴にさしてガチャリと開ける。

部屋の中に足を踏み入れれば感嘆の声を出さずにはいられなかった。



「広……」

「ここは俺の秘密の部屋だ。俺しか鍵を持っていないし存在を知るのも俺たちだけだ」

「校長先生も知らないんですか?」

「あることは知っているが、使用する目的は知らないはずだ」

「目的……」

「ここはおまえたちのための部屋だ。水館や火館と同じ扱いになる。ここはすべての魔法に対する耐久を兼ね備えている、いわば要塞だ。監獄とも言えるかもしれないが、先ほどの教室内のようにマナで溢れかえることはまずないだろう」



監獄……先生に鍵を閉められてしまえば密室になっちゃうけど、そんなことはありえないよね。たぶん……

怒らせない限りは……?まさかね。



「うああ……疲れた。マナがいないとどうも疲れる」

「そうですね。解放させてあげましょうか」

「わーい!遊べ遊べー!」



ソラ先輩が腕を伸ばして肩をほぐしながら言うと、チサト先輩もため息混じりにそう言った。

ルル先輩も両腕をバンザーイとさせて喜んでいる。



「マナを出現させていないときは、抑え込んでいることと同じだから体力の消耗が激しいんだ」

「なんで抑え込む必要があるんですか」

「だって、君たちビックリするでしょ?それに無意識に魔法を使ってしまう危険性もないし」



ソラ先輩はうーんとのびをしながら答えた。

目の前を馬が駆け抜ける。



「私はどんな訓練をすればいいんだろ……」



ぽつりと私は呟く。こんなに頑丈な施設を用意されても、それを使うときがない。

それじゃあ意味がないじゃん。宝の持ち腐れだよ。



「ミクには、これ」

「……飴、ですか」

「そうそう、飴。だがただの飴じゃない」

「ヤト君にもですか?」

「ヤトには必要ない。これは魔法を扱えるようになれる魔法の飴なんだ。魔法を操ることができる者にはいらないからね。これには一種の精神安定剤のような効果がある」

「それって麻薬とかじゃ……」

「違う違う。麻薬……どっちかって言うと魔法の薬で魔薬かな?確かにその成分は植物から採ったものだけど、大麻じゃないから」

「はあ……魔薬……」



先生が白衣のポケットから取り出したのは個包装されたカラフルな飴たち。青やら白やら黄色やら。

丸いフォルムのそれは先生の手のひらで鮮やかに光を反射していた。



「試しに舐める?」

「じゃあ、試しに……」



私は黄色の飴を手に取り透明なフィルムから取り出して口に放り込んだ。

味は無難に……レモン。特に変わった味はしないし、変な刺激もない。舌もピリピリとしないから毒素はなさそう。



「そんなに険しい表情をしながら舐める物でもないけどね」

「あ、すみません……いろいろと身構えていたので、つい」

「取り敢えず一週間分あげるから。1日1個ね」

「なんか薬みたいですね」

「だから魔法の薬で魔薬だって……」

「無くなればまた貰いに来れば良いんですかね」

「そうだね。声をかけてくれればあげるよ。必要ないと思ったら貰いに来なくてもいいし。まあ、そのときは魔法を使えるようになったときになるんだけど」

「……どれぐらい先になりますかねそのときは」

「さあ……俺にもわからないな」



そんな他人事みたいに言われてもなあ。一応担任で教師のひとりでしょうが。

と言いたいけど我慢する。あまりにも失礼すぎるから。



「この馬もめちゃくちゃ失礼だし……」



飴を舐めているせいでほっぺはゴロゴロ、馬のせいで髪はわしゃわしゃ。現に今また弄られてるし。また赤いネコ来ないかな……

と思って視線を巡らせてもあまり意味なかった。


だって今度はライオンのたてがみのところで暖を取ってるし。丸くなって眠っている。

まだまだあのネコは子供なんだなと痛感させられた。その主は……呑気に欠伸をしている。どんだけ眠いんだあんたは。欠伸してるとこしか見たことないぞ(嘘だけど)。


レモンの甘い味は私をどこまで導いてくれるのか、今後に期待しよう。もちろん他の味にもね。