『僕はもう、完全にこの世界から手を引くことにしたよ』

「フリード……」

『僕と会ったっていうことは内緒ね。僕は神様失格だからね、ヴィーナスに譲ることにしたんだ。僕はヴィーナスの創る最初の世界の土台になる』



目の前には悲しげな表情をする、端正な顔立ちの男性。全てにおいて完璧だから人間味がない。

まあ、フリードは神様なんだけどね。


最初、ここは真っ暗だった。でも、だんだんと視界が明るくなってフリードが現れた。

そして、彼の昔の思考も流れてきた。人間に手を出したせいで、彼は後悔している。彼の業績は大きいだろうけど、それでも過保護になりすぎてしまったんだ。

だから、その罪を償うことにしたそうだ。神様の集会みたいなのがあって、そこでフリードにその判決が下された。全ての神は常に監視されてるんだっていうことだけど、いまいち想像できない。

誰に監視されてるのって聞いても答えてくれなかったけど、でも、彼の心は硬い。迷いはないんだ。


隣で、黄金の瞳をし、黄金の長い髪を揺らしているヴィーナスが俯いている。ヴィーナスも本望ではないようだ。



『ならば仕方あるまい。神にも世代交代があるのだから』

『僕の場合は異例中の異例だけどね。君には悪いって思ってるよ』

『なに、気にする必要はない。私の居場所はもうすでにどこにもないのだから』

『君の仲間もすでに光になっちゃったし、寂しい生活を送ることになるよ?』

『ここにいなくとも、心にはいる。それだけで十分さ。おまえも光となり、世界を照らす糧になるのだ。誇りに思わねば勿体ない』

『僕たち神は消えると光になるんだ。光となって、ずっと見守るんだ。照らしてあげることはできるけど、導くことはもうできなくなる。それは悲しいことだけど、見守るのが本来の神の務め。だから、その運命を素直に受け入れるよ。ヴィーナスは立派な女神になってね』

『お別れだな、友よ』

『じゃあね、友達』



ヴィーナスの手に触れたフリード。彼は触れた指先から徐々に薄くなっていき、だんだんとその姿かたちを失っていく。

彼は最期に、私を見て優しく微笑んだ。


その微笑みからは、喜びしか感じられなかった。



『さあ、おまえも帰るがよい。魔物の脅威はおまえの力によって浄化され、フリードも去った。ここからは新しい時代の幕開けだ』

「きっと、素敵な世界を創ってくださいね」

『うむ。あの軟弱な男よりもマシな世界を創り出してみせるさ』

「では、私は帰ります。もう二度と会えないんでしょうね……」

『次会うときは、おまえが死んだ後だな』



ヴィーナスは凛々しく笑うと、きゅっと唇を引き締めた。ヴィーナスも腹をくくって神様になろうとしている。


それなら、私も未来への道に足を踏み出そう。それが上り坂でも下り坂でも、前に進んで掴み取ろう。

幸せな、未来を。



『また会おう、友よ』



ヴィーナスの言葉を聞いたら、急に恋しさを感じた。

閉じていく瞳の中で、彼の笑顔を垣間見た気がして泣きそうになった。