川がだんだんと細くなる中、徐々に空気が重くなるのを感じた。標高が上がっているというだけじゃない。

何か、禍々しい邪気。

それがここらへんをすっぽりと覆い、空気を澱(よど)ませている。泥沼の中を進んでいるみたいに息苦しい。

身体も重くなり、呼吸も浅くなり、とうとう俺はボードから降りることにした。これ以上は坂道だし歩いた方が体力を温存できると考えたからだ。兄貴の言う通りにそれは捨てていく。


はあ……はあ……と口を開けて酸素を求める。足取りは重く、座りたい衝動をなんとか抑え込みながら突き進む。


林冠のせいで地表には陽が当たらず、気温も下がっていく。さっき川で濡らしてしまったズボンが仇となって、身体がぶるぶると震え出した。今は冬、山頂近くになれば気温はがくんと下がってしまう。

だが、ここで立ち止まることは許されないし、許さない。


そろそろ限界が近くなっていたところで、急に森が拓けた。地面には背丈の短い草が生い茂り、久しぶりの陽の光があまりにも眩しくて両目を腕で覆う。


しばらくそうしていたが、埒があかないと思って瞬きを幾度となく繰り返し周りを確かめると……

そこは、白い花畑だった。日光に照らされて神々しいまでに輝く花たち。

その花には名前はなく、葬式や供物として添えられる一般的な花。一本の茎に大きな白い花を咲かせる。この花の花言葉は……


安らかに。


何年も前……そう、伝説の四人の時代よりももっと昔から生息しているというその花。気候関係なしにたくましくどこにでも生えるその花に囲まれて……



ミクが、倒れていた。