「嵩継、ライン取れ」






指示は入るものの、
震える手はそれすらも許してくれず
その場で立ち尽くすことしか出来なかった。







……海斗……。









「嵩継、退きなさい。

 成元、私が変わろう」





院長の声が降り注いだ途端、
現場の声すらも、
耳に届かなくなっていく。






何も出来ない。
居場所もない。




その場の緊迫した空気は、
今のオレにはあまりにも重すぎて
そのまま、処置室を出ていく。







「嵩継くん」






処置室を出た途端、
連絡を受けて駆けつけてきたらしい
海斗の母親の両手が
俺の体をギュっと掴み取る。







「おばさん……。


 すいません……」






小さく謝る言葉し見つからなくて。






「えっ……。

 嵩継くん……海斗は?」


「安田先生、何してるの?

 井津君のお母様ですね。

 今、海斗君の処置を先生たちが
 懸命にしてくれています。

 詳しい話は、処置の後にあると思いますので
 どうぞ、お母さまはこちらで」





水谷さんは、
海斗の母親をオレの傍から
引き離して何処かへと連れて行く。







海斗の母親に掴まれた
その腕の感触が消えない。