強引に握らされた鏡。
促されるままに覗き込む。
映し出されるのは、
憔悴しきったボロボロのオレ自身。
「見たわね。
今日は帰って休みなさい。
オンコール待機も
外して貰えるように、
私が院長に頼むから。
貴方のことは、私も心配なのよ。
貴方みたいな息子、
欲しかったんですもの。
嵩継くん」
包容力の深い、その人はそういうと
オレの背中をバシンと叩く。
急きょ、休みになってしまったオレは、
私服に着替えて、
アイツの実家へと向かう。
「こんにちは」
店が始まる前の時間にも関わらず、
ドアに手をかけて引くと、
扉がゆっくりと開いた。
「まだ開店前なんです」
奥からおばさんの声が聞こえた。
「嵩継です。
少し時間が出来たんで」
そう言いながら、
店の中へと足を踏み入れる。
「ごめんなさい。
おばさん、仕込で手が離せなくて。
海斗のお店、守らないと。
簡単なもの食べて行きなさい。
今から作るから」
そうやって声を張り上げる
おばさんの心の糸も、
かなり張りつめているように感じられて。



