「おぉ、肉旨かった。

 春巻とかも、
 お前の旨いんだよな。

 今度さ、これぞ魚っての食わせてよ。
 鮭の塩焼きとか。

 この間、鷹宮のテーブルに魚出たのはいんだが
 パイの中に入ってやがる。

 クリームソースと一緒に鮭が。

 まっ、それはそれで旨いんだけどな
 鮭ってのは、ナイフとフォークで食べるより
 箸で食べてぇよな」






はいはいっ。



お前にかかったら、
何でも否定的だろうが。





嵩継んとこのおばさん、
和食と中華メイン。

洋食と言えば、あいつの好きなステーキとか、焼肉だったしな。




「わかったから。

 今度、鮭の塩焼きな。
 弁当にいれといてやるから」




その時、アイツの院内PHSが着信を告げる。



反射的に、今までふざけてた
アイツのスイッチが切り替わっていく。



「はいっ。安田」


早々に会話を終えて、
アイツは俺に向き直る。



「海斗、ごちそうさん。
 呼び出しだから行くわ。

 またお前んち行くから。
 おばさんに宜しく。

 鮭の塩焼き、頼むぞー」



急ぎ早に言いながら、
走り去っていくアイツ。




「こらぁー。
 安田医師、余所見しない。
 前みなさい」



暴走マシンとかした
アイツを嗜めるように怒鳴るのは
ラスボスの水谷さん。



そんな慌ただしいアイツが
建物の中に消えて行ったのを見届けて、
俺はアイツの食べ終えた弁当箱を手にして
歩き出す。


チラリと目を落とす視線。



15時ちょっと前か。
長居しすぎたな。




そのままバイクのところまで
駆けて行って店へと急いだ。





違和感を覚えた、膝のことなど
アイツに相談することもなく。





また言えなかった……。