「で、何処に
 お連れすればいんですか?」


運転席から声をかけた
ソイツに、住所を告げた。



車はゆっくりと
走り出して、鷹宮から
あっと言う間に
自宅へとたどり着く。




自宅前に車が停車すると、
嵩継は後部座席をあけて、
トランクから荷物を運び出す。



もう……これで、
切り出す間もなく、
離れるんだろうと思ってた。



だけど……
運転してた奴が、
用事があるからとか何とか言って、
嵩継だけその場に置いて、
アイツの愛車を走らせた。




鍵を開けて、
久しぶりの自宅に入る。




小料理屋と居住区が
一緒になってる自宅だ。




手慣れた手つきで、
店のカウンターに入ると、
とりあえず、
お茶を嵩継の前に出す。





「海斗の店か?」

「あぁ」

「昔の飲み屋は?」

「おふくろが肝臓壊して
 しめたよ。

 その後、
 この小料理屋を開店したんだ。

 まぁ、この場所は、
 今年になってからだから
 2回目の開店って感じか」

「そうか……」




そう言うと、
嵩継はお茶を
ゆっくりと口に運んだ。



「なぁ、嵩継。

 逢えるか?
 あの頃みたいに……。

 もう離れようとするなよ」



おふくろが
居住区である
2階にあがったのを
幸いに、
思い切って言葉を切り出す。



「あぁ。
 
 またここに飯食いに来るよ。

 今の家、
 和食が少ないんだよな。

 院長夫人ってのが、
 外国の人でな。

 洋食が中心の食生活だからな」


「そんなことなら、
 何時でも歓迎。

 嵩継、仕事大変そうだからな。
 スタミナつく、肉料理も
 用意しなきゃな」




勇人って奴が用事を終わらせて、
嵩継を迎えに来るまでの1時間。




嵩継は、
昔のままに
リラックスして
俺の家で過ごしてた。




止まっていた時間が、
ようやく動き出した。




そんな気がした……。