海斗が紡いだ、
もう一人の懐かしい名前の主を
思いえがきながら、
別れた日のことを思い出す。


病棟看護師が迎えに来るまでの間、
オレは、当たり障りのない会話を
ポツリポツリと繋げた。


「安田先生、
 柳井先生より連絡を受けました。
 
 出津さんの病室手配できました」


処置室のカーテンが開いて、
看護師が顔を出す。


「有難う」

「先生、私が病室まで変わりましょうか?」

「いやっ。
 オレが行くよ」


海斗の車椅子を押しながら、
その後も、ポツポツと会話を続ける。



「お前、このまま手術な。
 おばさんは自宅か?」

「おふろくは、
 この時間、仕込みで忙しいかな?」

「でも連絡しないとな。

 手術は、
 おばさん来てから?

 それとも……」

「なぁ、
 手術って痛いのかよ」

「全身麻酔でするから
 寝てたら終わるよ。
足の中に固定金具入れて
 ボルトでしめるだけだから」

「げっ。
 そんなもん入れんのかよ」

「お前な、
 入れないなら一生車椅子だな」

「あー、嵩継が
 傍に居てくれるなら
 それもいいかな」

「オレは知らんぞー。
 バカなこと言ってる
 暇あったら、
同意書に
 サイン先にして
 手術して来いって」

整形の上村医師に
X-Pを手渡して
引き継ぎを済ませると、
海斗を病室のベッドに寝かせて
一度、ロッカ-ル-ムに戻り
白衣を脱いで
私服に着替えてから
再度、病室に向かう。