「お帰りなさい。
 嵩継君」


オレの姿を確認すると、
ハンドタオルを手に持って
近づいてくる。


「有難うございます」


差し出されたハンドタオルで、
手とふきだした汗をふき取りながら
自室フロアーの浴室へと直行する。

頭からシャワーを浴びて
汗を流すと、
ドライヤーで髪を乾かして
出勤用の装いへと袖を通す。


部屋のドアを開けると、
院長のお子さんである
二人も、学校の支度を済ませて
上の階から
降りてきたところだった。



「あっ、おはようございます。
 嵩継さん」

「あぁ、おはよう。
 勇人くん」



何時の間にか……
下の名前で呼び合うようになった
息子さんたちと言葉を交わすと、
オレも荷物を持って、
ダイニングへと向かった。


「おはようございます」

一礼してオレが入ると、
すでにテーブルには
院長先生が食事を始めていた。

先に到着した、
勇人君と千尋君の前にも
リズ夫人の手料理が
並べられる。


ここ院長邸にも、
複雑な人間関係があるのを
最近知った。


勇人君と千尋君。


兄弟のように
育ってきた二人だが、
血の繋がりのある
兄弟ではない。



初対面のある日、
千尋君は、
鷹宮千尋ですっと名乗ったのに対して、
勇人君だけは、勇人ですっと
下の名前を紡いだ。


だから当然、
鷹宮勇人と言う名前なのだと
思っていたが、
彼の名は、
緒宮勇人(おのみや ゆうと)と言った。