「上村先生、城山先生」
嵩継の雰囲気が、
俺とふざけてた時に比べて、
一気に研ぎ澄まされていく。
「井津くん。
大切な話があるが、いいだろうか?」
そう切り出した、主治医。
思わず息を飲みこむ。
すると隣に居た
嵩継がゆっくりと口を開いた。
「海斗……。
治療を中断して、
残りの時間を自分らしく生きないか?」
真剣な眼差しで告げる言葉。
「先日の検査で肺への転移が見つかりました。
今日までの化学療法は、井津君にとって
体力を消耗させていくものであって、
血液検査のデーターを見ても、
腎臓への負担が強すぎて
これ以上の効果が期待できないと言う結果になりました」
告げられた言葉は、
俺の命の終わりを告げる残酷な刃。
「……後、どれくらい生きれますか?……」
そう問いかけた俺に、
主治医は告げた。
「桜が見れるといいですね」
今は梅の花が満開を見せる季節。
その時期に、桜が望めないとなると
もう俺の体は、
何時急変してもおかしくないのだと
知らされた。
「なぁ、海斗。
院長先生が言ってくれた。
向こうのセンターで過ごさないか?
病気のことも治療のことも忘れて、
好きなことしてさ」
再び告げた嵩継の言葉に、
俺は静かに頷いた。



