「え、今日、奢りなの?」

…は!

会計の時にさりげなく金を出そうと思ったのに、
つい勢いで口を滑らせてしまった。

…気まずいし、恥ずかしい。

でも言ってしまったものは仕方ない。

「代演、引き受けてくれたから!」

意を決して、改めてお礼を言おうとしたら、

「ああ、なんだそんなことか。
いいよ。
奢りとかそんなんしてくれなくても。」

軽く返された。

「でも、たきのり、あんなに嫌がってたのに、
無理やりだったかな?って」

これでもちょっとは気にしてるんだから。

「いいの!私もやりたくなったの!」

力強く言われた。


たきのりは去年の年末に後輩と揉めた事件の後、中学卒業高校入学ということで、合唱部からしれっといなくなった。

理由は一切言わないで、何事もなかったかのように。

たきのりはいつもそうだ。
いい奴なんだけど、
何か困ってそうだなってこっちが察した瞬間、気がつくといなくなっている。

私に助けられることなんて何もないよと言っているかのように。

でも今回は違った。
戻って来て、くれた。
それがたまらなく嬉しかった。